[ 飯田リニア通信:2017/03/03 ]

平成28年(行ウ)第211号
原告 川村晃夫
被告 国(処分行政庁 国土交通大臣)
参加人 東海旅客鉄道株式会社

準 備 書 面

東京地方裁判所民事第3部B②係 御中

2017年2月24日

原告ら訴訟代理人
弁護士 高木 輝雄
弁護士 関島 保雄
弁護士 中島 嘉尚
弁護士 横山  聡

 リニア中央新幹線によって岐阜県に生じる被害について述べる。

1 岐阜県内のリニアのルート及び施設の概要

 岐阜県内におけるリニアのルートは、長野県境から東濃地域である中津川市に入り、恵那市、瑞浪市、可児郡御嵩町、可児市及び多治見市を通って愛知県境に抜ける55.1kmであり、そのうちトンネル区間が48.6km、地上部が6.5kmである。岐阜県内には、岐阜県駅と中部車両基地が1ヵ所、変電施設が2ヵ所、非常口が7ヵ所設けられる予定であり、建設発生土は1ヵ所の坑口から3,460万m3排出されるとされている。

2 予想される被害

(1)ウラン残生による放射線被害

 岐阜県の東濃地域には日本最大のウラン鉱床群が存在する。地域住民にとっては、この点(ウラン鉱床から掘り出される残土に混入しているウランから放出される放射線による環境及び人体に与える影響)がもっとも心配であるところ、参加人は極めて不誠実な対応に終始した。

 すなわち、参加人は、岐阜県知事から、環境影響評価方法書に対する岐阜県知事意見として、「路線やその他の付帯施設の位置・規模の具体化にあたっては、環境の保全の見地から特に重要と考えられる次の地域を回避するよう慎重に検討すること。」「ウラン鉱床やそのおそれが高い場所(地層)」、また、「ウラン鉱床やそのおそれが高い場所、自然由来による土壌環境基準不適合の土壌が分布している地域について、専門機関からの資料収集や現地調査等により詳細に状況を把握すること。」「ウラン鉱床やその存在を否定できない場所や地層等の掘削工事を必要とする場合には、掘削土中のウラン濃度の把握方法や管理を必要とする濃度のレベル及びウラン濃度が高い掘削上が発生した場合の取扱いについて、あらかじめ検討すること。」などを求められた。加えて、参加人は、平成24年2月28日にも、岐阜県知事から、環境影響評価準備書に対する岐阜県知事意見書として、「ウラン含有土壌に関しては、次の措置を講ずること。」とされ、「文献調査で把握した計画路線上のウラン鉱床に比較的近い地域及び地質が類似している地域にあっては、事前のボーリング査等においてウラン含有土壌の存在を含む地質の状況把握を行い、工事計画を定めること。」などを求められた(下線引用者)。

 このように、参加人は、岐阜県知事から、ウラン鉱床やそのおそれがある場所を慎重に回避すること、ボーリング調査や現地調査等を行って状況を詳細に把握すること、などを求められていた。にもかかわらず、参加人は、環境影響評価書において、「文献調査により確認したウラン鉱床は回避しました。」「ウラン鉱床については、独立行政法人日本原子力研究開発機構からの資料収集やヒアリングを行い、蓄積状況や分布状況を把握しました。」「なお、ウラン鉱床の近傍での掘削工事に際しては、線量計等により掘削上の状況を把握し、放射線量が高い掘削上が確認された場合には、法令等に則り適切に対処します。」という見解を示し、岐阜県知事から求められた慎重な回避や現地調査、ウラン含有土が発生した場合の対処方法等について、何ら対応しなかった。そこで、原告らも参加する市民団体である「リニアを考える県民ネットワーク」などが独白の放射線測量調査を行ったうえで、参加人に対し、再三、調査の要請をした。その結果、これを無視できなくなった参加人は、本件認可処分後の平成28年7月になって、「岐阜県内月吉鉱床北側の約3km区間における発生上等の管理示方書」を出しか。その示方書において、参加人もようやく「岐阜県内月古鉱床北側の約3km区間においてウラン鉱床が生成されやすい地質を中央新幹線が通過する」ことを認めるに至った。このように、参加人は、本件認可処分前には、岐阜県知事や地域住民からの要望に真摯に対応しなかった。

 また、当該示方書も極めて不十分である。すなわち、当該示方書の適用範囲は、「南垣外非常口から本抗接続部までの斜坑及び斜坑接続部(239k130m付近)から242k000m(注:品川駅からの距離)」とされている(注は筆者)。

 しかし、ウラン鉱床ないしウラン鉱床が生成されやすい地域は上記の区間に限定されるわけではない。すなわち、参加人はこの地域において十分な現地調査を行っておらず、この範囲に限定する根拠がないからである。

 実際、原告らが独自に放射線測量を実施しかところ、高い放射線数値を示し九地点があった。すなわち、原告らは、2016年2月16日、同年3月15日、同月18日及び同年11月2日に、独自に放射線測量を実施した。かかる測量に用いた計測機器はInspector、TERRA-P、PA-1000、MAGRX3130などである。このうちInspectorはα線、β線、γ線を計測し、それ以外の機器はγ線のみ計測するものである。計測地点は、同年2月16日、同年3月15日及び同月18日は、①御嵩町次月峠245km地点、②土岐市東濃鉱山正門前、③瑞浪市「正馬様洞」、④瑞浪市「月吉公民館」裏、⑤瑞浪市「南垣外」非常口付近、⑥瑞浪市「超深地層研究所」前の6地点、11月2日は①御嵩町次月峠245㎞地点、②土岐市東濃鉱山正門前、①瑞浪市「月吉公民館」裏、の3地点である。この4回の計測の結果、年間許容放射線量1m㏜を超える数値が何度も出た。とりわけ特徴的であったのは、計測した4回とも、リニアのルート上である①御嵩町次月峠245㎞地点が、他の地点、例えば②土岐市東濃鉱山正門前よりも数値が高かったことである。かかる計測結果からすれば、この地点は、トンネルエ事により、ウラン含有量の高い残上が排出される危険性がある。ところが、当該示方書ではこの①御嵩町次月峠245㎞地点は適用の範囲外とされているのである。

 また、参加人は、仮にウランを含有する残上が発生した場合には、工事ヤード(仮置き場)に30cmの覆土を施すとともに遮水シートで覆う措漑を講ずるとしている。ただ、このような対処方法で実際に放射線の影響が遮断されるのかはなはだ疑問である。また、かかる発生上を最終処分する場所や方法等についても未だ決定していない。

 このように、ウラン残生に関する参加人のこれまでの対応は不誠実とい引まかなく、またその対策も不十分というはかない。地域住民の不安は全く払拭されていない。そして地域住民の不安が払拭されないまま、瑞浪市の南垣外の工事が始まっている。

 なお、参加人は、本訴訟の第2準備書面においては、「本事業においては、放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。)及び土壌の汚染について、環境影響評価法の規定の適用はない。」と主張する(参加人第2準備書面75頁以下)。

 この点については、今後さらに詳細に反論するが、とんでもない主張である。これまでも述べたように、この地域の住民は、この点こそまさに最も危惧している。参加人に、地域住民の訴えに真摯に耳を傾ける姿勢があれば、環境影響評価法の適用などなくても万全の調査をしてしかるべきである。しかし、今般の「環境影響評価法の適用はない」との主張からして、参加人にこのような姿勢がなかったこと、及び認可申請にあたりウラン鉱床について何ら調査をしていない実態が改めて露呈した。

(2)自然破壊

 岐阜県中津川市千旦林には湧水湿地である岩屋堂湿地がある。この湿地には、環境省がレッドリストの準絶滅及び絶滅危惧種として指定しているハナノキやシデコブシが自生している。特にハナノキの自生地は国内最大と位置づけられている。そのほかにも、絶滅危惧種として、植物ではシラタマホシクサ、ミカワバイケイソウ、サギソウ、ミミカキグサ、ヘビノボラズ、魚類ではホトケドジョウ、腿虫類ではニホンイシガメ、昆虫ではギフチョウ、ハッチョウトンボなど、多数の希少種が生息している。かかる湧水湿地を、リニア岐阜県駅へのアクセスとして計画されている濃飛横断自動車道が横断する。このようなリニアに関連する道路計画により、貴重な動植物が絶滅する危険性がある。

(3)重要文化財の破壊

 可児市久々利地区周辺は、安土桃山から江戸時代にかけて、大萱、大平地区で陶器が盛んに作られた。織部、黄瀬戸、古瀬戸などと称する陶器がそれである。 その古窯跡群が点在しており、まさに美濃焼の聖地である。その上うな場所に高架橋が設置されリニアが通過する予定であり、貴重な文化財にどのような影響が生じるのか、近隣で生活する人々の歴史的遺産の破壊への不安は計り知れない。

(4)重金属による土壌・水質汚染

 可児市久々利一一帯は美濃帯と呼ばれる砂岩、チャートを主とした堆積岩の地盤がある。その中の黄鉄鉱成分が水と反応して酸性水を作り出し、その酸性水は他の鉱物と反応して重金属などの有害物質を溶出し、汚染水となって河川に流出し下流域に被害を及ぼす。実際、今から約10年前、東海環状自動車道の工事に伴う残上が久々利川上流域に埋められたため、上記のような河川の汚染が発生し、下流域の水田は被害を受けた。そして現在もその対策として中和プラントを稼働させ水処理をして下流に流している状況である。

 JR東海は、トンネルが「美濃帯」に遭遇することは認めているが、ボーリング調査すら行っておらず、処分地・方法も明らかにしていない。

(5)トンネル掘削による被害

 トンネルが通過する地域では、河川・井戸などの枯渇、地盤沈下、家屋の傾きが予測される。また限られた水源に依拠する農業用水への影響は深刻になることが予想される。また、「上かぶり」17mという地域が恵那市長島町にある。民家の真下17mをリニアが通過することによる影響を懸念し、当該住民は中央線測量を拒んでいるが、真摯に説明をしようとしない参加人の対応をみればそれも無理がらぬことである。

(6)騒音・振動被害

 岐阜県には中間駅である岐阜県駅が設置される。これは地上部に設置される予定であるため、リニアがトンネルから出る際の微気圧波や防音壁区間の低周波音などの騒音・振動の被害が予想される。

(7)景観・日照被害

 先にも述べたように、岐阜県においては地上部があり、地上部では高架橋が建設される。これにより曰照が阻害されるとともに、自然豊かな景観が破壊される。

3 以上述べたように、本件認可処分により、岐阜県においても、見過ごせない様々な被害が発生する危険性がある。そして、岐阜県瑞浪市の南垣外では既に斜坑工事が始まっており、既に上記の危険性が現実化している。

以上