飯田リニア通信 No.10 [2016年8月1日 Web連携]

☆ 住民の団結にJRが残土処分を断念、豊丘村小園

 JR東海はトンネル残土の処理地を、長野県を窓口にして探してきました。豊丘村は、本山厚生会、戸中、そして源道地の2つの沢を報告したと言われています。

 1月18日、JR東海の地元説明会で、源道地の沢に土地をもつ、栗沢さんは埋めた残土が土石流となって流出した場合の責任が誰にあるのかと問いただしました。栗沢さんは治山の専門家としての知見をもとに残土を置けば災害の可能性ありと判断したのです。2月下旬、他の沢の地権者と、沢へ残土を埋める危険性を訴えるチラシを地区内に配布しました。

 4月12日に小園研修センターで住民有志が開いた学習会「盛土は安全、それとも危険? ~みんなで考えよう~」では、リニアの賛成者からも不安の声がだされ、熱心な話し合いの結果、署名活動をして村に県へ候補地を取り下げるよう要望すること、詳細設計のための測量立ち入りを、地権者たちに許可しないように呼び掛けるなどが決まりました。

 住民は「リニア残土NO!小園の会」(原道治会長)を発足させ署名活動を開始、住民の約7割の署名を集め、5月上旬までに下平村長と2回の話し合いを持ちました。下平村長はJRに申し入れをしましたが県に対して報告の取り下げはしませんでした。そこで「小園の会」は村議会の6月定例会に請願書を提出しました。内容は、(1)JRに埋立地の設計を中止させる、(2)県への報告を取り下げる、(3)この沢の治山状況の調査を県に要請するの3点でした。

 6月8日、豊丘村、県、JR、伴野区、伴野原自治会の5団体による調整会議があり、JRが残土埋め立てを断念したことが確認されました。これは6月9日に村総務課長から議会へ報告されました。6月13日のリニア特別委員会では住民の請願は採択されましたが、21日の本会議では賛否同数、議長採決で不採択となりました。

 それでもとにかく源道地の沢への残土の埋め立ては避けられました。正しい理解をもとに団結した住民の力の前に、JRのリニア計画の一部は変更せざるを得なかったのです。リニアのマイナス面は確実で現実です。「夢」の巨大開発から住民の生活と安全を守るのは住民の団結だと思います。嫌なものダメなものには No!と言いましょう。

☆ リニアの工事認可取り消しを求める裁判 ~ 「決まったこと」じゃない

 リニア新幹線沿線住民ネットワークは2016年5月20日、東京地方裁判所に、国土交通省がおこなったJR東海に対するリニア新幹線工事の認可の取り消しを求め提訴しました。原告数は738人、サポーターも1千人を越えました。9月23日には第1回目の公判が開かれます。

 リニア計画は全国新幹線鉄道整備法に基づいて、国土交通大臣がJR東海の工事申請に許可を与えたので実際に工事に着工できました。とはいっても実質的にはほとんど本体の工事は始まっていないし、伊那谷では残土の置き場が決まっていません。始まってみれば予想通りできるかできないかわからない、非常に困難な事業なのです。

 リニア新幹線沿線住民ネットワークでは工事認可への異議申し立て5048件を取りまとめ国交大臣に、2014年12月に提出しています。しかし、以後何の回答もありませんでした。そこで、裁判の準備を進め5月20日に国土交通省を相手に工事認可の取り消しを求める行政訴訟を起こしました。

 リニア計画は、環境大臣も懸念を表明するような前代未聞の環境負荷の大きな開発であり、またJR東海自身が採算が取れないといっている事業です。国の交通政策全体に関わるような大問題であるのに、国会で審議されることもありませんでした。にも関わらず、国交省の審議会は簡単な審議で計画にOKを出しました。

 国の無謀な行政行為について、国民はノーという権利が当然あり、また保障されていますます。その一つがこの「ストップリニア!訴訟」のような行政訴訟です。飯田下伊那からも、多数の方が原告・サポーターとしてこの訴訟に参加しています。

☆ 経済対策の目玉にリニア

 安倍内閣は経済対策の名でリニア新幹線に3兆円の財政投融資を行うことを打ち出しました。財政投融資は国が財投債を発行して調達した資金を融資、出資するもの。国が借金の肩代わりをするようなもの。ずっとJR東海はリニアを全て自己資金で建設するといっていました。だからこそ事業に認可が下りたはずです。JR東海は国からの援助はありがたいとしており、これは約束が違うではないかと言わざるを得ません。

 しかし、財政投融資をするには、独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」を通じて国費を貸せるように法律を改正しなくてはなりません。安倍政権は秋の臨時国会に法律の改正案を出す予定です。つまり、ここにきて初めてリニアが国会の議論の対象になるのです。与党が多数といっても、リニア計画については経済関係者からも批判が強いので安倍首相の思惑通りいくかどうかはわからない、少なくとも、私たちは国会審議に注目すべきです。

 7月21日付け『朝日新聞』には「そもそも国が借金してリニアをつくってあげる必要があるのか。その点の議論をもっとするべきだ」という新藤宗幸千葉大名誉教授の指摘を載せています。

 リニア新幹線沿線住民ネットワークとストップリニア!訴訟原告団・弁護団は6月下旬にJR東海そして安倍首相と石井国交大臣にあて財政投融資の活用について撤回を求める要請書を提出しました。

≪ いいたいこと ≫ リニアはできるのかできないのか

 リニアに賛成か反対かという質問には簡単に答えれます。しかし、リニアは出来るか、出来ないかという質問に答えれますか? 議員さん、自治体の首長など政治家、お役人たちは、この、できるかどうかという質問に答えなければなりません。

 例えば、橋山禮治郎さんは、開発銀行で大型プロジェクトについて知識と経験を積んだ方。橋山さんは、リニアは失敗するから中止すべきといっています(注1)。できないからやるなと言っています。飯田市長の牧野さんは橋山さんと同じ経歴、知識経験があるはず。しかし、リニアの効果を地域に活かそうといっている。できるかできないかという判断は絶対に必要だと思います。

 南アルプスのトンネルについては、工事担当のゼネコンでさえ、掘ってみなくてはわからないといっています。ヘリウムの枯渇が心配ですが、高温超電導技術は完成していません。山梨実験線ではクエンチ(注2)は起きていないそうですが、問題はクエンチが起きても大丈夫かどうかということ。リニアの事業の失敗がわかるのは、何年後でしょうか? 2027年ですか? 工事に伴い移転とか騒音とかの犠牲が出るのは確実ですが、出来なかった場合誰が責任を取りますか?

 最近の経済情勢をみるとき、はたして今の日本にリニアが可能でしょうか。「必要か」ではなく、「可能かどうか」も考える時ではないでしょうか? (注1:橋山著『リニア新幹線 巨大プロジェクトの「真実」』(集英社新書)。注2:クエンチは、JR東海の技術の目玉である超電導磁石が突然磁力を失う現象)(サクラ。こんな感じで読者の皆さまのご意見も載せたいと思います。紙上匿名可。)


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