飯田リニア通信 No.7                      2013.11

 「飯田リニアを考える会」では、今度発表された「環境影響評価準備書」に対する意見を「JR東海」へ提出しましたが、以下それらの一部を記したいと思います。

動物・植物・生態系に関するもの   ―ミソゴイー

 大鹿村の上蔵地区及び青木地区に、絶滅危惧Ⅱ類に指定されている「ミソゴイ」が生息していることが確認されている。国際自然保護連合(IUCU)日本委員会によると、「ミソゴイ」はサギ科の渡り鳥で、日本でのみ繁殖し、その生息数は世界中でわずか1000羽ほどと推測されている。「ミソゴイ」が大鹿村で繁殖しているということは、日本に残された数少ない豊かな自然環境と、そこに暮す人々によって長い間守られてきたからである。現在進められている南アルプスの世界自然遺産登録に際しては最大級の要素になり得る。

 調査では、確認場所は改変場所から600m以内としているが、場所は明らかにされないまま、生息環境に変化が生じないとしている。そのうち上蔵地区の生息地は工事用道路開設予定地で、土地の改変・トラックによる騒音・振動・多大な排気ガスの発生が予測され、生息は不可能であると考えられる。もし、「ミソゴイ」が日本で繁殖出来なくなれば世界から絶滅することになると言われている。

 関係機関による早急な保護対策が取られるべきは当然で、「JR東海」はそれを踏まえた長期的な再調査するべきである。

 また、生息地にある沢は、昭和20年代に大規模な土砂崩落を起し、当時の建設省の官舎が埋もれた歴史がある。更に、この沢筋には大鹿発電所の圧力導水管が設置されているが、道路の開設によって損傷を与える恐れがあるとともに、二次災害を誘発する恐れがあることも付記しておく。

 以上の理由から、リニア新幹線の代替ルートを探るべきである。

自然環境・植物・残土捨て場

 長野県南部は、植物種多様性の世界のホットスポットです。今日の開発により、この地域の自然環境が破壊され、遺すべき生物多様性の生態系が保全されないことに危惧しています。その理由の第一に、残土捨て場の環境アセスメントが全く為されていない事にあります。トンネルエ事に伴い膨大な残土が広大な谷や沢を埋め尽くすと考えられます。

 谷や沢は、在来植物種多様性の高い、遺すべき自然が多いと考えられます。JR東海は残土捨て場もトンネルを造るのと同様に、責任ある姿勢をとり、候補地を挙げ、環境アセスメントをしない限り準備書とは言えません。残土処理まで責任が持てない開発は中止して下さい。

赤石山脈等の自然を破壊するリニア計画

 明確な採算性の見通しもなく、脱原発を前提に今後のエネルギー計画を立てなければならない時に、大自然の残る赤石山脈を中心とする自然にプラスにならない計画に絶対反対します。

 (1) 赤石山脈の活断層をはじめとする地質の危険性を熟知している地元の研究者の意見を全く無視している。

 (2) 残土の処理計画の具体的構想もなく、ただでさえ狭い飯田下伊那の道路はパニックになるのは必定である。

 (3) 工事などを含めた騒音の地元説明で、70デシベルに達しない69デシベル以下との話だが、70~90デシベル未満は高度難聴、50~70デシベル未満は中度難聴で、普通の会話が聴きずらい。近くの自動車の音にやっと気付くレベルです(70デシベルからは6級の難聴障害に当たる)。これで数字的にクリアーしていると言えるのであろうか。

一企業の横暴

 一企業が自然を自由に崩してよいのでしょうか。郡市民の水を一企業が勝手にしてよいのでしょうか。一企業が地方を切り捨ててよいのでしょうか。一企業が電力を大量に費やしてよいのでしょうか。

環境保全のための措置

 環境保全措置の検討に当たって、(1) 影響回避または低減することを優先する。(2) 実施時期及び期間は、計画の熟度に対応し、適切に選定する。(3) 保全措置についての複数の案の比較検討、実行可能な技術が取り入れられているかの検証を通じ、適切な措置を講ずる。とある。この内、(3) について、環境保全措置についての複数の案の比較検討、実行可能なより良い技術が取り入れられているかの検証を考えた時、必ずしも「超電導磁気浮上方式」「主要な経過に赤石山脈中南部を入れること」強いては「中央新幹線」計画に固執する必要もないではないか。「環境保全措置の妥当性を検証し、適切な措置を講ずる」のであれば、この「中央新幹線計画」の原点に立ち返り、主要な経過地(甲府市付近から赤石山脈中西部を経過すること)の見直し、超電導磁気浮上方式の見直(現行鉄道輸送方式の採用)、強いては、中央新幹線計画そのものの見直し(既存路線の複線化及び現行鉄道輸送方式による、より短距離の新規路線建設への転換)も必要と考える。


水象・水質

 山梨県の実験線工事で、地下水系が断たれ、川が涸れたのに、天龍川の支流である土曽川(飯田市座光寺と上郷を貫流)のような小さな川の地下水の調査がされていない。

 地下水は、生態系や産業(特に農業)や飲料水に影響がある大事な調査項目である筈です。

 長大なトンネルエ事なので、将来水害が心配です。そもそも「リニア中央新幹線」は、必要ないのです。

土地の安定性・地形改変・地質環境
地下水・水道水源

 中央構造線を通過するその活動度が甘い。例えば、最終活動期8000年前とか示されるが、享保年間にも2回の記録があり、大鹿村に於いては河床礫も切られている。

 トンネル内の湧水は、影響が少ないと記述されている。国内の山岳トンネルでの実績では、そんな事実は殆どない。これまでの鉄道・高速トンネルの実態と経験を学んで真摯に対処すべきである。そのためには、水文調査が不十分である。

 小渋川を鳶ケ巣峡で架橋する。両岸は緑色岩の岸壁で、崩壊しやすい。ここで、土木改変ことは、崩壊を誘発する。

 大鹿村での蛇紋岩や、赤石山地の付加体地質への配慮が余りにも杜撰である。

 天龍川右岸の飯田市上郷から上飯田地区においては、扇状地内の浅いトンネルとなるが農業用水、特に深井戸(40~50m)が点在する。これらの水路を切る以上、その対策が必要である。

 大鹿村の釜沢水源や大河原水源(青木)への保全が曖昧である。または、触れていないのか。


リニア中央新幹線は本当に必要か

 私の脳裏には「リニア中央新幹線は本当に必要だろうか」という思いが常にある。

 10月26日の朝日新聞紙上に、「リニア新幹線に乗ってみたい?」というアンケート結果(回答者2341人)が載っていた。「乗ってみたい?」の問いに対して、65%が 「はい」、35%が「いいえ」だった。「リニア新幹線は必要?」に対しては、「不要」が18%、「どちらかといえば不要」が36%、「必要」が10%、「どちらかといえば必要」が27%、「わからない」が9%だった。また、「リニアに期待することは?」に対しては、「安定性」が1343人、「リニアに対して疑問に思うことは?」は、「巨額な建設費」が1528人だった。これらの数字から判断出来ることは、人々は「リニア中央新幹線計画」に対しては、冷静に考えているということであり、建設賛成の人々の側からすれば、残念な事実であると思う。

 10月28日の「NHKラジオ深夜便」4時台の「天野祐吉の隠居大学」に、所ジョージさんが出られて、いろいろと興味ある話をされていたが、故天野さんは「リニア新幹線は設経費が巨額であり、速過ぎて旅の手段としては宜しくない。必要ない」と発言され、所さんは[人間の旅の乗り物の最高の物は馬車である。リニアは必要ない」と述べておられた。同感である。

 「リニア中央新幹線」は、最高時速505キロを出すという。何故、それほど速い列車が必要なのだろうか。理由は様々だろう。私は思う。「そんなに急いで何処へ行くのか」と。大部分はトンネルで、明かり部分もフードで覆われて、車内からは景色、外部からは車体は殆ど見えず、まことにおかしな列車である。

 私が最も心配するのは、大自然が破壊されるということである。そして、トンネル工事の時、膨大な量の残土が出され、これを如何に処置するのかということも大変な問題である。「JR東海」は如何に考えているのだろうか。

 この計画は不可解なことが多過ぎるのだ。日本が高度経済に進みつつあった時に発想されたこの計画は、今後の日本の実情と余りにも離れ過ぎており、将に博打であると思う。ドイツでは、国会で否決された。さすが、ドイツ人だと思う。アメリカでもこの計画には関心が薄いと聞く。外国にこの技術を輸出しようとしても、受け入れる国はないだろう。9月23日の社説で、「リニア新幹線 国民的議論が必要だ」という見出しでこの新幹線計画に対して、「疑問や不安もまだ多く、今こそ徹底した国民的議論が必要である」と述べている。将に然りである。

 「リニア中央新幹線は本当に必要か」ということを、徹底的に議論して、国民お互い納得のゆくようにしなければならないと思う。「JR東海」という一企業だけの問題ではない。今後の日本の将来を占う重要問題であると思う。

伊那谷の美し柔肌切り刻むリニア恐ろし文明の華

連絡先:飯田市高羽町3-4-9 電話 0265-24-5604 「飯田リニアを考える会」代表 片桐晴夫


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