飯田リニア通信 No.5 2013年 4月1日
リニア計画は、岐阜県のハナノキ湿地を貫く
はなのき友の会 所澤あさ子
●東海地方の湿地群
南アルプスや中央アルプスが隆起する前、東海地方は、日本列島の成立中、他に類をみない広い範鹿で永い時間をかけて、湿地が高密度に形成され続けたと言われています。
この湿地群は、飛騨高山方面から東海地方に河川が砂礫を運び粘土等の不透水層と水を透しやすい礫層が幾重にも重なって堆積し、表面の亀裂から絶えず純水に近い貧栄養の水が浸み出しています。
ハナノキ湿地は、標高差が10mも未たない谷で、裸地や、青々としたオオミズゴケが繁茂した幾筋もの窪地から水が浸み出し小川となっていき、瑞々しい光景となっています。その周辺に、ハナノキ、ミカワバイケイソウ、シデコブシ、ヘビノボラズ等、固有種、遺存種といった貴重な植物が数多く自生しています。
これらが生育する温地群を、リニア計画は貫こうとしています。中でもハナノキ湿地(ハナノキが生育する湿地)の代表的な地域は、中津川市千旦林(せんたんばやし)岩屋堂、瑞浪市松野湖、土岐市泉町久尻(くじり)等で、ここに計画があがっており危惧を抱いています。
ハナノキは、直径1m、樹高30mを越える大木になるカエデ科の日本固有の絶滅危惧植物です。
現在自生のハナノキの胸高直径5㎝以上の個体数は、1600個体程確認されているだけです。上記の千旦林では、1000個体近くもあり、この付近に駅と操車場(そうしゃじょう)の計画があがっております。
●植物種多様性の高い豊かな生態系
東海地方の湿地群ですが、あまりにも身近な場所にあるため一見どこでもある雑木林に見えてしまいます。しかし、絶えず浸み出す湧水は一定の水温を保ち、気候変動が激しい時期も、湿地環境は安定していたと想像できます。
氷期には暖地の植物が遺り、間氷期には寒地の植物が遺ったのではないかと考えられます。
事実、ミカワバイケイソウは高山に生育するコバイケイソウの変種ですし、ヘビノボラズやヤクシマヒメアリドオシランは南方系の植物です。
この様な穏やかな湿地環境が広範囲に永く続いた事で、他に無い植物種多様性と豊かな生態系が遺ってきた地域と言えます。
しかし、ただの雑木林ととらえられたり、裸地草地と言われ、経済的に価値が無いと思われ、ゴルフ場や廃棄物処分場等にされてきました。
湿地は繊細ですので少し溝を掘るだけでも消失し、直接改変しなくても、地下や周囲の地形の改変で消失し、汚水の侵入でも植生が変わり、影響を受けます。湿地群はリニアによって地形の改変や土捨て場として破壊されることに危惧しています。
永い地球の歴史の中ではぐぐまれた湿地の生態系や地質、地形は、一度壊されると、人間の力で再び造る事はできないものです。
南北の多様な植物を遺す事のできた豊かな生態系をもつ湿地環境は、人間にも住みやすい環境に違いありません。この湿地群を遺す事の意味は大きいと思います。
連絡先:「飯田リニアを考える会」 代表 片桐晴夫
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