飯田リニア「通信」No.2                2012年6月9日

リニアと原発

 「3.11」は、東日本だけの課題ではない。この国は、大きく変わらざるをえない。いや変わるべきだ。原発至上からの脱皮が必要だ。経済至上から、安心な暮らしへの転換が必要だ。誰もが、それぞれの立場から、何を選択すべきかを決めるときだ。

 この国は、「3.11」という維新に直面した。原発安全神話にだまされてきた私たちは、今回の事故で広大な国土を人の住めない土地にしてしまった。このことを自覚しなければならない。政府の「避難指示解除準備区域」という欺隔に、だまされてはいけない。人が百年以上は安住できない大地を、つくりだしてしまったのだから。

 政府は、「3.11」による大動乱のさなかの昨年5月に、リニア中央新幹線建設を決定した。これは未曽有の国難に乗じた企業論理丸出しの暴挙だ。かつてない国土の大規模開発を、形式的な小委員会が、わずか一年足らずの審議で決めてしまった。国会でも、じゅうぶんな審議検討はされなかった。 21世紀だというのに「万機公論に決すべし」の片鱗も感じることができない。「3.11」は、「国家発展の礎は電力なり、ゆえに原発推進なり」で突っ走ってきたこの国の終着駅ではなかったのか。それにも拘らずリニアによって、いま私たちはさらに大きなリスクに直面し、不安を抱えることとなった。「夢のリニア」という幻想に巻き込まれる愚を、繰り返してはならない。「倫理のない開発」は止めるべきだと、私は信じている。

以下9項目について検討してみたい
1)どうするリニアの電力
2)原発最前線の実態は
3)福島原発事故への対応は
4)浜岡で見たり聞いたりしたことから
5)危ない経済優先
6)リニア開発=原発継続
7)リニアのために柏崎原発を増設せよ!
8)地震で損傷した柏崎刈羽原発は廃炉に!
9)中電による教師の原発見学会

1)どうするリニアの電力

 リニアに電力を供給するには「原発継続しかない」と、JR東海の会長、葛西敬之氏(東京電力に関する経営財務調査委員会委員)は昨年5月24日の産経新聞紙上で語った。

<以下一部引用>

 「原発を止めれば電力供給の不安定化と電力単価の高騰を招き、日本経済の致命傷となる。原子力を利用する以上、リスクを承知のうえで、それを克服・制御する国民的な覚悟が必要だ。・・・・政府は稼働できる原発をすべて稼働させて電力の安定供給を堅持する方針を宣言し、政府の責任で速やかに稼働させるべきだ。」

2)原発最前線の実態は

 2012年5月6日の新聞には、「国内の原発50基の全てが停止」とのニュースが大きく掲載された。北海道泊原発3号機が定期点検に入ったからだ。定期点検中には多くの労働者が、被曝危険区域内で働く。かれら労働者の大半は、下請けのいわば日雇労働者たちだ。電力会社社員たちは、原発労働者に作業を指示するだけで、危険は冒さない。

3)福島原発事故への対応は

 被曝環境下で労働する原発労働者の健康をまもるために『被曝限度量』が定められている。この限度値は、福一原発事故以前は1年間に50ミリシーベルト以内で、かつ5年間で100ミリシーベルト以内だったが、事故後は1年間にミリシーベルト以内と一挙に5倍に引き上げられた。昨年12月16日の野田首相が“冷温停止状態“を宣言したことで、100ミリシーベルトに下がった。しかしそれでもまだ事故前の限度量の2倍だ。

4)浜岡で見たり聞いたりしたことから

 浜岡原発を見学したとき、近くの住民から聞いた。「原子炉建屋内で働く人たちの着衣は焼却される。でも建屋の外で働く作業員の着衣はクリーニングにだされる。そのクリーニング屋の店主が亡くなった。長い年月この仕事を続けて、被曝したのが原因だ。」

 浜岡は原発景気で賑わっていると思っていた。行ってみたら、原発周辺には人家もなく、水田は広がっているものの寒々とした風景だった。「原発がなくなると、受け入れ自治体が衰退してしまう」という報道をよくみる。国内には原発依存地域が19か所もある。同じようなことが基地問題でも報道される。リニアを受け入れてしまったら、私たちの伊那谷もリニア依存による衰退地域になりはしないだろうか。

 地域経済問題の一面的な報道ではなく、そこに生活する人の実態や苦しみの本質こそ報道されるべきだし、私たちはそこを知る必要がある。

5)危ない経済優先

 福一原発事故までは、「原発ほど安い電力はない」という報道が繰り返されていたが、いまはピタリと止まっている。嘘がばれたからだ。

 安全運転のために、原発は、以前は9か月運転して3か月定期点検をしていたが、いまは14か月で40日の定期点検が多い。原発の設計上の耐用年数は30~40年だったが、福一事故のあとに経産省は「60年までの運転」を容認している。

 日本政府は、耐用年数を過ぎた原発が起こした大事故の原因を、想定外の津波のせいにして、耐用年数の引き延ばしをする。人命よりもなによりも、とにかく経済を優先する。

6)リニア開発=原発継続

 福一事故は "レベル7"、同時多発原発事故として人類史上最悪。放出された放射性物質は、セシウムで広島型原発の168個分。想像を絶する甚大な被害をもたらした。

 原発がひとたび暴走すれば、人類に解決方法はない。ところがJR東海最高責任者は「全ての原発を再稼働させろ」「国民はリスクを覚悟しろ」と言う。たくさんの乗客の生命を預かるのが、鉄道事業ではないか。

7)リニアのために柏崎原発を増設せよ!

 「車両の浮上走行理論」を執筆し旧国鉄がリニア開発に着手するきっかけをつくった川端俊夫元国鉄技師は、「リニアの消費電力は、新幹線の40倍」という意見を発表した。この発表に、尾関雅則JR総研元理事長は「新幹線の3倍にすぎない」と反論した。 JR東海のリニア消費電力3倍論の根拠はここにある。いずれにせよこの膨大な電力を賄うために、東電は柏崎刈羽の原発増設を、中電は浜岡の原発再稼働を狙っている。

 リニアは、原発2基から5基分の電力を必要とする。-リニア市民ネット(リニア計画中 止を求める市民グループ)発行の『夢から覚めたリニア』より

8)地震で損傷した柏崎刈羽原発は廃炉に!

 地質調査会社の下請けをしていた友人が亡くなる前に言っていた。彼は柏崎で原子炉を設置する地盤を掘削し、活断層を調査していた。「すごい軟弱地盤だった。そこを40メートルまで掘り下げた。足を取られるような断層粘土帯の連続で、深い穴の中での調査は恐怖だった」と語った。ところが東京電力安全審査委員会は、「原発直下の活断層は5万年前よりも古いので再活動はしない。 40メートルまで掘り下げたので耐震性も問題ない」と。新潟地震・中越地震・中越沖地震と柏崎刈羽原発では、原子炉圧力容器などの損傷状態がまったく確認されていない状況だ。にもかかわらず国と東電は再稼働を決めている。地元の反対住民は、「損傷した原発は廃炉しかない!」と訴えている。

9)中電による教師の原発見学会

 30年程前のことだが、信濃教育会会長は「中電による教師の浜岡原発研修事業」を受け入れた。日教組はこれに反対した。大多数の長野県教師は両祖織に会費を払っていた。こうしたとき信濃教育会会長の講演を聞いた。「電気に色はついていない。原発による電気と水力火力による電気の区別はできない。原発講習会に反対する教師は、電気を使うべきではない」と。

 実施された研修会には、二日間の日程で多くの教師が参加。費用は全額中電がもち、宿泊は蒲郡の旅館で慰労会もついていた。こうして義務教育の現場においても、原発推進のための洗脳が進められていた。

2010年に当地の商工会議所連合会は飯田、下伊那の小学校児童にリニアの下敷きを配布した。

教育現場まで利用する意識の囲い込みはおかしい

筆者 松島信幸

連絡先 飯田市高羽町3-4-9 TEL 0265・24-5604

飯田リニアを考える会(代表 片桐晴夫)


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