飯田リニア通信 更新:2024/09/15

本山の残土置き場に活断層

 静岡県の大井川沿いの360万㎥の残土置場の計画地の直下に断層がある可能性がわかりました。静岡県は、これまでにJR東海から報告がなかったことについて、残土置場の選ぶときに非常に大事な情報なので、きちんと説明しなかったことは、信頼関係が損なうことになると指摘しました。9月6日に行われた、リニア工事による地質構造や水資源への影響を議論する専門部会でのできごとです。

豊丘村の本山の残土置き場にも活断層

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[ 拡大 ] 本山(ほんやま)の残土置き場

 本山(ほんやま)の残土置場は、長野県内ではリニアのトンネル残土の処分場所としては最大規模の約130万㎥の残土を本山の東南側にあるジンガ洞の谷を埋める計画。現在、埋め立て工事中です。

 この残土置き場には、活断層があります。「地質図Navi」の地図に残土置き場の輪郭を書き込んだのが下の図です。環境調査や保全計画において、予定地に断層が描かれた地図を、JR東海は示していません。これは大問題です。

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赤が活断層、黒が断層。緑色の残土置場の輪郭は「飯田リニアを考える会」が書き込みました。

 静岡では、大事な情報を公表しなかったことが問題とされました。本山の場合も、活断層があることを、JR東海は、なるべく知られたくないという姿勢で取り扱ってきた跡がみえます。

 JR東海は、これまでに、本山に関する環境保全計画を3つ公表してきました。

2017年2月公表の「豊丘村内発生土置き場(本山)における環境の調査及び影響検討の結果について 平成29年2月」

2017年2月公表の「豊丘村内発生土置き場(本山)における環境の調査及び影響検討の結果について 平成29年2月」(第1分冊)では、「第4章 調査結果の概要並びに影響検討の結果」の「4-2 土壌環境・その他」の「ウ 地形及び地質の概要」で

発生土置き場(本山)計画地及びその周囲に分布する主要な活断層は、評価書「4-2-1(4)地形及び地質の状況」の図4-2-1-17にしめすとおりである。下伊那竜東断層は、豊丘村神稲の東部において北東-南西方向に分布している。

「4-2-2土地の安定性」では:

発生土置き場(本山)計画地及びその周囲に分布する主要な活断層は「4-2-1重要な地形及び地質」に記載のとおりであり、下伊那竜東断層がある。新編日本の活断層(活断層研究会、1991年)及び地震調査研究推進本部における活断層の長期評価資料による、下伊那竜東断層の活動度、活動周期及び最終活動時期を、表4-2-2-3に示す。

と、説明しています。「ある」「なし」ではなく「分布」というコトバを使っている点に注目。

 また、資料編には現地を実地に調査した観察事項の記述があるのですが、断層について、存在をしめす証拠があったとか、なかったとか、といった記述はありません。ボーリングコアの柱状図には「粘土混じり砂礫」という記載はありますが…。

 本編の「第7章 対象事業に係る環境影響の総合的な評価」では、「選定した環境要素ごとに、調査、検討及び評価についての結果の概要を表7-1に示」して、

環境保全措置を実施することによって、環境への影響について事業者により実行可能な範囲で回避または低減が図られ、環境の保全について適正な配慮がなされている事業であると総合的に評価する

と、しています。「表7-1」は下の表です。

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 表の赤線部分の「土地の安定性に配慮した工事計画とすることにより、土地の安定性は確保される」とは、具体的には、地元の説明会において、「残土置場には活断層があるけれど、それについてはこれこれの設計をするので、危険性はない」という説明がなされることです。しかし、そういう説明はありませんでした。また事後調査もしないといっています。

「評価書」で確認すると「ある」

 長野県内では、環境影響評価の段階では残土置場で決まった場所がなかったので、2014年8月に公表された「環境影響評価の補正版」(最終版)では、残土置場について評価はまったく行われていません。

 実際に「評価書」をみて確認していただきたいのですが、「図4-2-1-17」という図面は、「図4-2-1-17(1)」から「図4-2-1-17(6)」まであります。長野県内のルート全体を範囲とした「20万分の一」の図が1つ、部分拡大した「5万分の一」の図が3つ、とそれぞれの縮尺の図の凡例が2つです。

 豊丘村から飯田市内を流れる松川あたりまでを含むのが「図4-2-1-17(4)」でその右下部分に本山の残土置場が含まれていました。下に示します。

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 下に示すのは、2017年2月の保全計画の「4-1-1-3」ページにのっている「図4-1-1-1」の一部です。計画地のおよその位置をJR東海は楕円で示しています。

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 2つの図共通の赤いタテ線は「旭山」と「本山」の頂上をとおっています。「A-B」のヨコ線は「旭山」から約700mの位置です。環境影響評価書の図の「下伊那竜東断層」と「A-B」の交点に注目すると残土置場の中に「下伊那竜東断層」があることがわかります。

 繰り返しますが、環境影響評価書の時点では、そもそも、長野県では残土置場については取り上げていなかったわけです。たまたま、本山の計画地が含まれている地図があったにすぎないのです。

 あらためて、保全計画で、この本山の場所を中心とした図面を示す必要があったのに示していない。 それは、なぜなのか

 なお、2019年8月公表の「豊丘村内発生土置き場本山における環境の調査及び影響検討の結果について(その2)」(*)は、残土置場の北側に隣接する「仮置きヤード」についてのもので断層については、2017年2月の保全計画とほぼ同じ内容です。

* 本編(24.1MB) 資料編(8.4MB)

 そして、2021年に差し替えられた「豊丘村内 発生土置き場(本山)における環境保全について」(*)では、「第3章 環境保全措置の計画」の「3-3-2土壌環境・そのほか(土地の安定性)」とか、「第5章発生土置き場の管理計画」などあるのですが、断層については、説明がありません。

* 本編(13.4MB) 本編②(15.6MB) 資料編(8.0MB)

 これら3つの保全計画は、JR東海のホームページでは、長野県内の環境保全の計画のページの「発生土置き場の環境保全の計画」に、断層についてなにも書いていない、2021年に差し替えられた「豊丘村内 発生土置き場(本山)における環境保全について」があります。

 そして、断層については環境影響評書を参照せよという、残りの2つの保全計画は、JR東海のホームページでは 長野県内の事後調査・モニタリングの「発生土置き場における環境の調査及び影響検討の結果について」の「【豊丘村内の計画地】」にあります。

 「調査及び検討の結果」と「環境保全の計画」という分類は、あり得るのでしょうが、2カ所にわけて掲載することで、環境影響評価にまでたどり着くことを困難にしている面があると思います。場所ごとにまとめないと経緯が分かりにくいのです。

水源涵養保安林指定の解除

 予定地には、水源涵養保安林の指定があって、JR東海は指定解除の申請をし、長野県の林務課が審査したのですが、2020年6月9日に長野県森林審議会保全部会が飯田市内で開かれ審議されました。午前中に部会員(専門家など)の初めての現地視察があって、午後審理という日程でした。

 審議会への説明の中で、JR東海は、1961年の豪雨災害(三六水害)のとき、付近ではほとんど斜面崩落などの被害が出ていないことを説明する資料を提示しました。

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[ 拡大 ] 左右の図で崖崩れの形を示す位置は同じですが、形、特に太さが違っています。右の図にある断層を示す線が左の図にはありません。

 資料は、国土交通省天竜川上流河川事務所が三六災害から50年にあたる2011年6月に発行した「三六災害洪水はん濫・土砂災害の記録」に加筆したものと説明されていました。予定地付近の土砂崩壊の状況が示してありました。

 この「三六災害洪水はん濫・土砂災害の記録」を入手して確認しました。図の欄外に、飯田市美術博物館が三六災害から30年にあたる1991年に出版した『伊那谷の土石流と満水』の付録「伊那谷中央部の災害基礎資料図」が原図であると記載されていました。

 『伊那谷の土石流と満水』の付録「伊那谷中央部の災害基礎資料図」には、土砂崩れや氾濫などの災害のあとだけでなく、実は、断層を示す線が記入してありました。残土置き場の予定地内に断層が記入してありました。

 『伊那谷の土石流と満水』の付録の地図を作成した方によると、天竜川上流事務所が複製するときに断層については削除したとの事でした。削除の作業をしたのが美術博物館側なのか国交省なのかは不明です。2つの図面を見比べると断層と接近した土砂災害を示す図形が原図と複写で異なっていることが分かります。当時まだパソコンで原図に被災カ所をレイヤーを重ねる手法はなかったと思います。手作業で削除修正した痕跡が分かります。

 資料に出展が示してあれば、元になった資料を確かめるのは常識です。JR東海または委託を受けた業者さんは、2つの地図を見ているはずです。つまり、JR東海は、2つの地図から、断層の記入の無いものを選んだ可能性が非常に高い。

2つの事実をつなげると

 まだ残土置場が決まっていなかった2014年に公表された「環境影響評価書」に掲載された断層を示す地図には、JR東海にとっては残念なことに、ルートに近い本山の計画地までふくまれていました。

 本山へ残土を置くことが決まったあとの3つの保全計画では、活断層について書いてあるんですが、その「分布」について、漠然と、「環境影響評価書」の「図4-2-1-17」を参照するように書いているだけです。評価書の地図では残土置場内に活断層が存在することが確認できるのです。しかし「分布」については評価書で述べたとして、保全計画で活断層があるから、特にこうい点に気を付けて盛土の設計をしたとか、工事でこういう点に気を付けるということが書いてないので、残土置場には活断層はないと誤解する人も多いはずです。また、現地を調査した結果、活断層の証拠となるものが、見つかったとか、見つからなかったという記述もありません。

 保安林指定解除の森林審議会保全部会の審議で提示した周辺の三六災害の状況を示す地図は、断層が削除されたものを説明に使いました。

 つまり、活断層が残土置場の中にある事実を隠そうとする意図が見えます。じっさい、いままで、当地域でこの点が問題として話題にのぼることはありませんでした。

盛り土と断層の関係に触れたくないJR東海

 JR東海は断層と盛土の関係に触れたくないのではと思わせるエピソードを紹介すると。

 本山の残土置場の説明会で、リニア関連で最大の残土置場の規模と場所を質問した時、JR東海は160万㎥とだけ答えました。場所は中央自動車道の境川PAのそばですかと、聞くと、ご指摘の通りですと、小声でいってました。

 境川PAの残土置場について、山梨県は、PAのある尾根の両側の谷を埋めて、全体で約330戸分の住宅開発をするつもりだったのですが、工事の途中で、阪神大震災があって、盛土の崩壊が多発したことから、住宅地として売り出すのはやめたということがありました。付近に活断層があったからです。現在はJR東海がリニアのガイドウェイ製作・保管ヤードとして使用している以外は空き地のままです。

 つまり、断層の上とか近くに盛土するのはまずいという認識が、JR東海さんだってあるのでしょう。静岡の場合も長野の場合も、気が付かなければ、まあいいやといった姿勢でもあります。

補足:2024/09/19

 2017年2月7日に行われた第6回豊丘村リニア対策委員会の会議録に以下のようなやり取りがのっていました。

(質問) 8)本山に下伊那竜東断層が確認されているが、問題ないのか。
(回答) ⇒環境影響評価書にも文献調査を元に下伊那竜東断層のおおよその位置について掲載しています。本山発生土置き場候補地全体を網羅できるようボーリング調査を実施した結果、硬質で良好な岩盤が確認されております。ボーリング調査結果を踏まえ、本山発生土置き場候補地の詳細設計を行っています。なお、発生土置き場の盛土安定計算は、最新の国の基準(道路土工-盛土工指針)で設計しています。この基準では、震度7を記録した兵庫県南部地震クラスの地震を受けても崩壊しないような設計になります。

 回答は「文献調査を元に下伊那竜東断層のおおよその位置について掲載」とはじまっています。2017年2月の保全計画の「分布する主要な活断層は『4-2-1重要な地形及び地質』に記載のとおり」とおなじいい方です。「予定地内にある」と明確にはいいません。「候補地全体を網羅できるようボーリング調査を実施した結果、硬質で良好な岩盤が確認」と続けています。質問を、はぐらかしています。聞く人たちに「予定地内に断層はたぶんないので、心配することはないよ」と印象付けるような回答になっています。

 豊丘村リニア対策員会の会議録を第1回(2015年2月26日)から29回(2024年5月27日)まで調べましたが本山の断層についてのやり取りはこれだけのようです。質問者はきちんと「下伊那竜東断層」と正確な名前をいっています。もちろん詳細な発言内容が分からない部分があるのですが、会議録を読めば、心配することはないだろうと思う人が多いはずです。JR東海の回答は、本来は「ある、なし」は基本になるのですから、明確であるべきなのに、「あいまい」というほかないです。

 あいまいにする理由は、活断層の上に盛り土することが危険であって、本来は住民や地域社会から理解を得られるものでないことをJR東海自身が理解しているからでしょう。

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