飯田リニア通信 更新:2022/10/05
「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」の報告集会、10月2日
コロナのためにだいぶ遅れていた、「リニアから自然と生活環境を守る沿線住民の会」(以下「沿線住民の会」)の質問(6月1日)に対する、JR東海と飯田市の回答(6月30日)についての報告会が、10月2日に上郷公民館でありました。
JR東海の回答
JR東海は文書での回答をしませんでした。沿線住民の会のニュースにメモにもとづいた回答を掲載しています。
JR東海の回答について麦島さんの報告の要点
- 事務所内に入れるのは3名まで、録音録画はできなかった。メモのみ。
- 工事方法を検討中で回答できるものはない
- 工事前の土地所有者の承諾をとるべきという指摘については、5m未満は取得、5m~30mは区分地上権の設定するという範囲の回答で、30mより深い部分のことついては説明がなかった。
- 大深度法適用の都市部では本来行う必要のない工事前の家屋調査などをしているのに、適用のない上郷ではしない
- 大深度法の前提は調布市の陥没事故などで崩れたと言える
主な質疑
Q:JR東海の秘密主義の背景は
A:地方の住民をお客と思っていないからではないか
Q:30mより浅い分について必要な手続きは行われるはずだが?
A:30mより浅い部分の土地についての、取得や区分地上権の設定と補償はすでにおこなわれたと聞いている
Q:土地所有者への承諾を得ない点について、訴訟とかいったことを考えているか?
A:以前から、30mより深い部分については、権利が及ばないというような説明がされ、信じ込んでいる方が多い。鉄道事業者としてトンネルの安全を確保するためどこの土地の下にトンネルがあるのか明確にする必要がある(*)。きちんと承諾をとってから工事をすべきと訴えていく必要がある。また住民に知らせることも必要と考えている。(* 鉄道運輸機構が新幹線工事による水枯れ対策の水資源を探すボーリング調査中に、鉄道運輸機構の前身の鉄建公団が建設した長崎本線の長崎トンネルに穴を開け特急列車が破損する事故があった。おそらく区分地上権の設定や登記が行われていた場所だと思う(土被り13.5m)。それでもこういう事故が起きる。トンネル上部の土地については地下にトンネルのあることがはっきりわかるようにする必要があり区分地上権はいずれの場合も設定する必要がある。⇒ 『朝日デジタル』2021年11月25日 "掘削機がトンネル貫通し特急に接触、容疑の工事関係者を書類送検")
Q:先月行われたJR東海の説明会のなかで、土地所有権の問題についての質問はあったか?
A:9月27日の説明会で、住民(*)から、誰の家の下を通るのかという説明がない、きちんとした説明を求めるという声があった。また、麦島は30m以下について何も説明しない点について、承諾なしの工事といえるが、法的根拠をただしたが、30m以深について何も言及がなく、法的な根拠はないといえると思う。(* 質問者は「まちづくり委員会会長」)
Q:30m以深のトンネルの地上に住む人に情報が知らされていない点について、飯田市はどう対処しているのか? また知らせるように要望できないのか?
A:住民の会として要望している。飯田市は家屋調査などについて必要性は認めている。(関連=飯田市の回答の3番目)
飯田市からの回答について
大坪さんは飯田市の回答(書面回答=資料)についての説明のほかに以下のようなことを述べました。
説明会場について危険物の持ち込みなど制限する貼り紙が9月7日の北条地区だけ対象の説明会で貼ってあった。以前から、マスコミの取材禁止など制限をしてきた。江戸時代から住民が暮らしているところに、線路を引かせてくれということで、本来、民間企業であれば頭をさげ通させてくださいという立場なのに、こういう制限をしようとするのはけしからんこと。27日の貼り紙には誰が貼ったものか書いてなかったが、飯田市や長野県も同じ説明会で説明をしている。住民に対する考えが飯田市もJR東海と同じということになる。
2027年開業の見込みがないのに、利用者6800人の想定で、6.5ヘクタールの駅前周辺整備を急いでいる。われわれは、整備事業を急いてやる必要はないと主張している。残っている家屋は5~6件、移転代替地が75パーセント埋まった状況になった。そんなところへ、松川工区のトンネル残土(残土)を置く計画が出て来たが、住民感情としては許せないと思った。住民の会として9月12日に抗議をした。文書に「廃土」と書いたら「廃土」ではない、良質の土であるといわれた。松川工区の残土は下條村へ運ぶはずだった。
飯田市への質問(抗議+質問) と 飯田市の回答(30日)
工事車両の運行計画の説明は非常に複雑で、工程が上手くいっていないことを示していると思う。
駅周辺整備に市民の税金をつぎ込んで、予定通りの開業のない場合に、住民を立ち退かせた土地の有効利用が問題になるはず。
主な質疑
Q:飯田市は到底無理な2027年開業を想定して関連事業を進めているが、他に災害復旧などするべきことがあるという主張をしたら?
A:飯田市にそういう姿勢を改めるよう求めることは必要と思っている
Q:松川工区の残土の問題について9月7日に説明会が紛糾し飯田市はこの件についてはいったん「引き取る」ということだったのに、9月12日の抗議書の質問に対する9月30日の回答に、残土を置く土地のもともとの所有者や周辺の住民には承諾を得たと書いてある。飯田市の説明はおかしいではないか。
A:9月7日の説明を撤回する(取り下げる、引き取る)という点は間違いない。9月7日以降に予定していた、残土仮置き場の周辺の住民への説明と承諾を得るなどの手続きや、JR東海と協議すべき段取りなどが終わっていない状況でくちをすべらせてしまったというのが9月7日の出来事だったはずです。(仮置き場の周辺の住民への説明は搬入で迷惑をかけるので必要ですが、元の地主さんにはもう所有権はないし既に移転したので承諾を得る必要はないはすで、7日の説明会で住民の強い反発を受けたため元所有者にも承諾を得たのでしょう。全般的に飯田市側も混乱していて対応がマズイ点はたしかにあると思います。)
Q:確認したい、批判するつもりはない。この沿線住民の会の方向性としては、リニア新幹線の是非を問うものではなく、あくまで北条に住む住民への説明を求めるとか、補償を求めるとか、工法の変更を求めるとかいう方向性なのか。リニア新幹線は進めることは認めることを前提とした運動なのか。
A:最初からリニアに反対するという立場ではなかった。これだけ住民がバカにされ続けてきて住民の怒りが、これ以上勝手にやらせてはいけないという声を結集して、ダメなことはダメといえるような、住民組織が必要と考えてつくった。中には最初からリニアは成り立つはずはないと反対という人もいるが、それだけでは空中戦だけで終わってしまう。JR東海のやり方がおかしいことについて指摘するには、住民の切実な要求をバックにしないと、有効でない。理屈の問題としてリニア自体を批判することはできるが、それだけでは住まない。住民の皆さんといっしょになってダメなことはダメといえるような運動をしなければと思う。黙っておれば、どんどん進んでしまう。いろいろな意見はあろうが、今はそういう立場だ。
Q:地域限定の話にしてしまうと、この地域だけの問題で終わってしまう。国策事業としてリニアが進められていて、それ自体に大義がなくなってきているからこういう状態になっていると思う。地域に限定してしまうと、関心を持つ人が、関連する人に限られてしまう点が心配だ。
A:住民の会としてできることはきちんとやるが、それ以外に皆さんにそういう意見があったら自由にやっていただきたいと思う。いろいろな意見の人がいる現状で、住民の会としては、大義がなくなっているとかいう理論的な問題だけで反対運動ができるものではない。他の組織については、それぞれの考えによってやることですから、大いにやって下さい。
A(参加者から):豊丘村の源道地では残土処分地をJR東海に撤回させた。松川町の生田でもほぼ撤回させた(*)。飯田市の龍江も埋め立ては無理だと思う(**)。これらの経験をみると、特に豊丘村の場合は、残土処分に反対した人たちではどちらかといえばリニアに賛成の人が多かった。生田の場合も龍江の場合もリニアの賛否については両論あったと思う。リニアの賛否は問わずに谷に残土をおいては危ないということで集まっていると思う。また、ほかでやっている運動については口を出さない、悪くいえば知らないよという態度だが、それぞれの地域で抱えている問題を、生活を守るという立場からどう対応すべきかということで、盛土のような具体的な問題について対処することでまとまっていく組織でないと発展しないと思う。(* 松川町生田では、地域内で協議する中で、3つの候補地のうち2つ(合計590万㎥!)は早くに地元が候補を取り下げ、最後に残った30万㎥の候補地も地元が候補を取り下げた。** 龍江の場合もしっかりした住民の盛り土反対運動があって、支持者が増えつつある。)
Q:JR東海の説明会について、JR東海でなく飯田市が会の進行をすることは出来ないだろうか? 長野県や国交省との交渉も視野に入れていったらと思うがどうか?
A:検討すべきことと思うが。飯田市の立場から無理と思う。
この質問についてコメントすれば、住民にもっとも近い自治体に働きかけをするのが民主主義的なやり方として基本と思います。地域の住民の多くの人に関心を持ってもらうにも効果があると思います。
リニア関連の最近の動きについて
静岡工区の着工の見通しがいまだに見えないこと、川勝知事の突飛な発言(部分開業論は鉄道建設では定石)はリニア問題の本質を突いていること、最初の工事工程と特にトンネル工事の掘削ペースの見込みと実績の差からみて、おそらく2027年開業という目標は空証文だっただろうということ、地下深い場所での大断面積のシールド工法は確立した技術でないという専門家の指摘が出ていること、世界の鉄道産業はスピードより環境重視、ワシントンDC・ボルチモア間の超電導リニア計画もうまくいっていないなど。なお、報告者がふれている阿部修治さんの論文はこれです。2013年に発表されたものですが、リニア新幹線の技術について本質的な部分について重要な指摘があります。
Q:静岡県知事の言動に関連して、リニア自体の問題点が示されるとしても、対立を深めているだけのようにも見える。リニアの問題点をリニアを推進する立場の人に理解させるにはどうすればよいと考えるか?
A:そういう方法についてはよくわからないけれど、源道地の残土置き場を撤回させたことは、事実としてはJR東海は困ってしまったわけです。
静岡県だって大井川の水の問題について、「リニアの賛否にかかわらず」問題にしてるわけで、組織の規模はだいぶ違うんですが、2016年(!)に、源道地の谷埋め盛土を撤回させた豊丘村小園の住民と同じことをやってるんだと思います。
収入が減った時、物価が上がった時、考えることは、出費するのは「必要なもの」に限って「欲しいもの」はあきらめるというのと同じですね。あるいは、便利でも危ない部分は「何とかしろよ」とか。
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