長野県内のリニア建設工事の進捗状況について(2019年7月30日現在

更新:2019/07/31

 静岡県では大井川の減水を巡って静岡県とJR東海が対立し南アルプストンネルの工事が着工できていません。また、以前は長野県だった岐阜県中津川市の山口では、日本でも有数の活断層帯である阿寺断層内の斜坑トンネル工事で崩落陥没事故が起き工事が止まっています。長野県の西隣の岐阜県、東隣の静岡県で工事が止まったままです。長野県内のリニア工事状況についてまとめてみました。これは、リニア中央新幹線沿線住民ネットワークからのリクエストにより2019年6月27日報告した文書をもとに、最近の事情を数か所補足したものです。

もくじ

大鹿村

 2014年11月10日の事業説明会では工事の当初の予定(以下、当初)は、"作業用トンネル坑口は2015年秋、変電施設は16年度、小渋川に架ける橋は17年度にそれぞれ掘削や建設を始める(『信毎』2014年11月11日)" とされた。長野県がJR東海の資料をもとに作成した2017年(平成29年)6月27日時点の「大鹿村内の予定」(以下、中間)は、当初予定より遅くなっている。現在は全般的に2017年の予定に比べても遅れている。2019年6月25日に村リニア連絡協議会が開かれJR東海より工事進捗状況の説明があった(以下、連絡協。『南信州』2019年6月26日)。

除山斜坑

 当初2015年秋掘削開始が、2017年4月27日掘削開始。中間では、2018年度中頃:先進坑・本坑掘削開始とされたが、現在、全長1870mのうち約900mを完了(連絡協)。

釜沢斜坑

 当初2015年秋掘削開始、中間では、2018年度始めに先進坑・本坑掘削開始だったが、2019年7月上旬からヤード造成、冬から掘削開始の予定とJR東海が説明(連絡協)。なお、保安林解除申請は一部の地権者の同意がないままで行われた模様で、出席者によれば、ヤードの準備工事をしたいとの説明だが、図面に重金属判定の仮置きピットがなく、ヤードの規模を縮小して着手する計画。7月30日現在、新聞、テレなどで準備工事が始まったとのニュースはない。

小渋川斜坑

 当初2015年秋掘削開始が、2017年7月3日掘削開始。中間では、2018年春に先進坑・本坑掘削開始とされた。2019年4月5日斜坑の掘削完了、秋から先進坑掘削開始予定とJR東海は説明(連絡協)

青木川斜坑

 当初2015年秋掘削開始、中間では、2018年1~3月に斜坑掘削開始とされたが、2018年秋よりヤード整備が始まる。2018年9月21日の工事説明会で "作業用トンネルの掘削は来年夏ごろから(『南信州』2018年9月22日)"と説明している。

小渋橋梁

 当初2017年度建設開始、中間では、2018年度にヤード整備完了となっているが、工事未着手。

変電施設(上蔵)

 当初2016年度建設開始、中間では2018年度中頃に造成開始予定だが、2017年以降は小渋川斜坑のトンネル残土仮置場になっている。残土が片付かないかぎり造成はできない。

松川インター大鹿線道路改良

 残土運搬ルートの松川インター大鹿線のトンネル工事は、中間では、2018年度中頃完成が、西下トンネルは2019年1月供用開始、東山トンネルは2019年3月供用開始となった。

 松川インター大鹿線拡幅工事は、中間では、2018年度に完了予定が、まだ済んでいない(半の沢橋など)。

赤石公園線他改良

 赤石公園線他改良工事は、中間では、2018年前半に完了が、工事中。

国道152号線迂回路

 国道152号線迂回路工事は、中間では、2017年度中に完了の予定が、未完了のまま暫定使用。仮橋の地権者が長野県に調停を申請したが、2019年5月31日に不調となった。

三正坊の残土仮置き場の使用期限

 釜沢地区三正坊の残土仮置き場(4万7千立米)の使用期限(2020年7月17日)が迫っている。連絡協で新たに南側に7万立米分を確保すると説明。

豊丘村

 本体の工事が始まっているのは、坂島斜坑のヤード整備だけであり、当初計画に対して最大で3年以上遅れている。

 2014年11月4日の事業説明会でJR東海は、"トンネルの掘削を2016年度、変電施設の建設を17年度に始めたいと説明(『信毎』2014年11月5日)"。事業説明会では工事スケージュールを配布していなかった。同説明会のスライドによれば「高架橋等」は2017年中頃の工事開始予定。

坂島斜坑

 長野県がまとめた「リニア中央新幹線の工事の状況 県内工事の概要」(更新日:2019年4月4日)に掲載の「工事スケジュール」では、坂島斜坑のヤード整備開始が2017年度第2四半期から、トンネル掘削開始は2017年度第3四半期となっているが(*、ヤードは2019年3月11日開始で現在造成工事中(**)。

* JR東海は、2017年3月29日に佐原地区で開かれた事業説明会で同様のスケジュールを説明(『南信州』2017年3月30日)。

** 『南信州』2019年2月27日

戸中斜坑

 戸中斜坑についてはヤード整備開始は2017年度第4四半期だったが、敷地内の建物や樹木などの撤去は済んでいるが以後全く手つかずで、1~2年の遅れ。

伊那山地トンネル・本坑

 壬生沢川岸の伊那山地トンネル本坑からの掘削はついに目途が立たず、戸中斜坑から両方向に掘る模様。この坑口については長野県がまとめたスケジュールには記載すらない。壬生沢川の橋梁についても工事方法の検討中だが地権者の協力が得られない。

変電施設(大柏)

 変電所の造成は2017年度第4四半期となっているが、物件調査を経て補償を2018年度に予定していたが、補償についての説明会は2019年5月で(第18回リニア対策委員会議事録)、その後に工事に入るはずだが、いまだに工事は始まっていない。約1~2年の遅れ。

喬木村

 2014年11月7日の事業説明会では、"高架橋や天竜川に架ける橋の建設を2017年度の中ごろ、トンネルの掘削を19年度の中ごろに始める(『信毎』2014年11月8日)"と説明。いずれも、実際の工事は始まっていない。天竜川の橋梁は約2年の遅れ。トンネル掘削は数字の上では余裕はあるが、ヤードの整備もまったく手付かず。2019年4月から堰下地区でガイドウェイ組立ヤード造成のための準備工事が始まり、現在耕土の剥ぎ取り作業中。造成にトンネル残土7万立米を使う予定。7月30日に確認したところでは、敷地中央の水路が新設され、南端の調整池が工事中だった。敷地内に数か所盛り土があり、これは水田などの表土をはいだものと思われる。

飯田市内

 2014年11月14日の事業説明会の配布資料によれば、トンネル工事は2016年度の中頃だが、中央アルプストンネルの松川工区で2018年2月15日に着工(『南信州』2018年3月20日)し、現在ヤードを造成中。2~3年遅れている。これ以外はなにも工事は行われていない。

 風越山トンネルについては、水資源利用者が多数あり、地質調査のため15か所の追加ボーリングを行い、当初のNATM工法をシールド工法に変更した(『南信州』5月18日)。

 駅部の用地取得は2019年度中頃には完了の予定が、まだ取得できた土地はないし、用地取得のための測量も一部で地権者の承認を得られていない。駅部の工事は2018年度中頃だが用地買収が全くされていないので1年以上は確実に遅れている。

 橋梁・高架部・保守基地は2017年度中頃に工事が開始される予定となっていたが全く工事は始まっていない。約2年遅れ。

阿智村

 2014年11月12日、事業説明会では、萩の平の斜坑について、2016年度中頃に着手(『信毎』2014年11月13日)としていたが、まだヤード造成工事も始まっていない。萩の平付近の残土置場もまだ検討中。約2年半遅れている。

 萩の平の斜坑から出る残土については、斜坑ヤード付近やより上流に置くという案もあったが、上流はすぐに飯田市に入るので、阿智村は木曽方面からの残土は受け入れないと表明している手前、萩の平周辺に置かざるを得ない。専門家によれば絶対安全とは言えないが、置けないことはないという。しかし、黒川に近い1軒については非常に危険性があり、土石流対策の擁壁設けるか移転するかの防災対策をきちんとしなくてはならないとのこと。

南木曽町

 2014年11月6日の事業説明会では、"町内でのトンネル工事は2016年中ごろからの開始を計画している(『信毎』2014年11月7日)" と説明。現在、尾越斜坑周辺で測量と地質調査中(「第26回 南木曽町リニア対策協議会(令和元年5月7日開催)」)。広瀬斜坑については、5月始め時点で工事は行われていない。約2年半遅れている。

 7月25日に南木曽町はJR東海や運輸機構と着工前に結ぶ確認事項の案をリニア対策協議会に対して示す。

残土問題

 豊丘村では、2016年6月に2つの谷への合計約51万立米の残土処分地について住民の反対により、JR東海は使用を断念せざるを得なかった。

 本山生産森林組合は 2017年3月に130万立米残土受け入れを承諾した。しかし、長野県が組織運営の問題を指摘。受け入れの決定を無効とした。以後、組合の再建を図るが、結局、会員資格の緩い認可地縁団体に組織替えし、組合員資格を失っていた受入れに熱心だった組合長が再び会長におさまり、2019年6月9日に再度受け入れを決定。現時点ですでに2年3か月の遅れで、さらに保安林指定解除の申請手続きに時間がかかることが予測される。また住民の間に根強い反対もある。

 7月25日に開かれたリニア対策委員会の席上、村側はこの会議で村として保安林の指定解除について同意をしてよいか決定するよう提案。本山地縁団体会長に経過説明のあと、下流域を代表して林区の区長から同意して良い旨の発言があり、他に発言はなく、村の提案を承認。林区の区長が下流域住民の意思を代表しているとは言えず、議事は、村側がつくったシナリオに沿って行われたと思われる。これもJR東海と推進側の焦りの現れといえる。

 松川町生田地区の3か所合計620万立米の候補地は30万立米の中山の1か所を残して590万立米は生田地区 3地域の住民自治組織の合意で候補取下げに。残る30万立米の置場についても、誘致の目的が道路拡幅ということが明らかであり、下流域の自治組織は強く反対しており、新たな検討組織を設け話し合うとの計画はいまだに進んでいない。

 6月30日、残土の受入れを進める生東区は、信大教授の山寺喜成氏を招き「災害に強い地域づくりのための講演会」を開く。あらかじめ区の出した質問に答える形の講演であり、「大量に盛り土をする場合、どのようにして永続的保全を図ったらよいですか?」という質問があった。山寺氏は盛土については専門ではなく斜面緑化についての専門家。緑化と防災というキーワードで区民の認識を誤った方向に誘導する意図が見られた。

 中川村の半の沢、大鹿村のアカナギ下(鳶ヶ巣沢)の残土置場については、3月末に結論をだす予定のJR東海の費用で長野県と大鹿村が設置した第三者による検討委員会が結論を先延ばしにした。『信毎』2019年5月13日が厳しいレポート記事を掲載している。

 7月12日、半の沢とアカナギ下の残土置場の安全性を審議する第三者検討委員会が東京都内で非公開で開催。大鹿村(アカナギ下)、長野県(半の沢)が出した計画案を大筋で承認した。ただし、半の沢については、地権者である中川村長が慎重で、別の専門家に意見を聞く意向があるという。

 『南信州』2019年6月11日「リニア残土活用先、一定量確保か」は、昨年12月に県が残土処分候補地を再募集した結果、"飯伊の工事で発生する残土795万立方メートルのうち、行き先が不透明な約350万立方メートルの一定量を満たすものと見られる。" としているが…

 長野県内で発生する残土970万立米のうち、工事が完了または工事中の残土の処分先は、旧荒川荘跡地(3万立米)、ろくべん館前(5千立米)、大鹿村総合グランド嵩上げ(10万立米)と、準備工事の始まった喬木村のガイドウェイ組立ヤード造成(7万立米)。この4か所が、『南信州』が "確定している残土本置き場”と書いているもの。リニア建設工事の中で使うものとして、豊丘村大柏の変電施設の造成(14万立米)。確実と思われるものが、喬木村伊久間の土地造成(8万5千立米)。合計で約43万立米。新たに県が受け付けた12件は場所等は非公開ながら『南信州』によれば公共工事での活用が中心ということで、それぞれが何十万立米単位の大量の残土を必要とするとは考えられない。

 7月4日の『信毎』に、駒ヶ根市の中沢で約20万立米を受け入れるとのニュースが掲載された。10日にJR東海、県、市、中沢区と地権者の会合が非公開であったが、市によれば、「何も決まっていない」とのこと。計画が決定に至るには、これまでの他地域と同様に紆余曲折があるはず。

 『信毎』(2018/11/2,2019/5/13)、『中日』(2019/1/24)、『読売』(2018/11/1)などは、残土処分地の確保はJR東海が思うようには進んでいないこと、谷埋めの危険性などを書いている。