更新:2019/06/05

各地で問題化するリニア新幹線工事の中止を求める声明

 JR東海の金子慎社長は5月30日の定例記者会見で、静岡県内のリニア新幹線工事の着工が遅れていることについて、「未着工の状態が続くと(2027年の)開業時期に影響を及ぼしかねない」とし、「早く準備を整えトンネルの掘削工事の段階に進まなければならない」と述べた。これを受けて石井国土交通大臣は5月31日の記者会見で、「リニア中央新幹線は国民生活や経済活動に大きなインパクトをもたらす重要な事業である」とし、「静岡県内の工事を含む事業全体が円滑に進むよう、引き続き必要な調整や協力を行っていきたい」と述べた。

 以上の報道だけを見れば、静岡県の対応がリニア新幹線の建設促進を遅らせていると受けとられかねない。しかし、JR東海がリニア新幹線事業の環境影響評価をきちんと実施せず、手続き上の必要性から工事実施計画を作成して申請を行い、これを国交大臣が認めたため着工を強行したことから、品川~名古屋間の工事各所で様々な事故やトラブルが相次ぎ、工事の中断や遅れが起きているのが現状である。

 もとより、静岡県内にはリニア新幹線の中間駅は出来ず、開業による地域振興などのメリットは全くない。逆に、北部の大井川源流部で南アルプストンネルの一部が10キロ余りにわたってつくられ、そのことで大井川水系への地下水流入が毎秒2トン減水するとされ、その量は下流域の62万人分の水道水に相当する。また、370万立方メートルもの工事残土が源流部の燕沢河岸に高さ60m、長さ600mの規模で積み置かれれば、大井川源流部の土砂崩壊や希少な生態系の喪失につながる懸念がある。このような大きな被害が予想されることから、静岡県が専門家会議を設け、JR東海に喪失される水量の全量を大井川水系に戻すよう求めているのは自治体として当然の要求である。にもかかわらず、静岡県が専門家会議での意見をまとめた環境保全措置に関する63項目の質問や環境保全対策の提示についてJR東海は誠実な回答を示していない。県民や自然環境に未曾有の影響を与える静岡県内のリニア工事について、JR東海が真摯な対応を怠り、開業遅れの原因が静岡県の姿勢にあるように言い立てるのは筋違いである。ましてや、国交省が静岡県内の工事推進のためにJR東海側に立って調整や協力を行うことは本末転倒であると言わざるをえない。今こそ、国交省は原点に立ち戻り、静岡県や県民の声に寄り添い、JR東海のリニア工事の環境影響を真摯に受け止め、国として工事認可を取消し、工事を中止させるべきである。

 いま、名古屋駅や中間駅予定地周辺では、用地買収について住民の反対の動きが広がっており、リニア供用後の騒音や振動対策の不備をめぐって訴訟も起きている。工事自体も、名古屋の名城非常口の地下水流入、岐阜県山口工区でのトンネルの崩落や地表の大規模な陥没事故が発生している。これ以上工事を強行すれば、地下水の噴出や枯渇、残土処分地探しで住民とのトラブルが起こり、工事関係者の作業環境の悪化なども懸念される。

 リニア新幹線の開業が経済効果や地域振興につながらないことは既に明らかにされている。膨大な建設費や国の3兆円もの財政支援があっても、工事の現状からみて2027年の開業は到底無理であり、結果として沿線住民や自治体や住民に財政負担をもたらすことになることが確実である。

 非常口をつくり、南アルプストンネルや都市圏の大深度トンネルを掘りはじめてしまったら取り返しがつかない。私たち沿線住民は、JR東海がリニア工事を中止しリニア事業を撤回するよう強く求めるものである。自治体や住民の声を受け止めるべきである。 以 上

2019年6月7日

リニア新幹線沿線住民ネットワーク

共同代表 天野捷一、川村晃生、片桐晴夫、原 重雄

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