ストップ・リニア!訴訟ニュース 第15号

更新:2019/03/11

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ストップ・リニア!訴訟ニュース

第15号 2019年2月23日 発行:リニア新幹線沿線住民ネットワーク

独自技術にこだわって複雑で高コストなシステムに
建設を強行決定し、限界的な無理を重ねているリニア

 2月8日、第13回口頭弁論。今回も傍聴席は抽選になりました。提訴から2年半、弁護団はこれまで一都六県各地の環境影響評価の問題点を指摘。国からすべてに反論が出て、再反論は、あと川崎、町田、相模原の一部が残っています。今回は、長野県の環境影響評価についての国側の反論に対する原告側の再反論と原告適格の主張でした。原告適格を示す表づくりに弁護団は大変な作業をされたとのことでした。地裁前集会では、外環ネット、大鹿村の住民、JR東海労、熊森協会などから連帯の挨拶がありました。閉廷後の集会では、4名の国会議員の挨拶があり、武蔵野大学教授の阿部修治さんによる講演がありました。

蒲生路子弁護士の意見陳述(要旨)


1.JR東海が実施した長野県環境影響評価は、(1)影響評価を行う対象が不明確又は不確定、もしくは(2)評価手続きにおいて調査・予測・評価を行うべき対象又は項目が欠落しているまたは、調査・予測・評価を行ったと評価できないものであった。しかし、国は工事実施計画を認可した。裁量の逸脱・濫用であり環境影響評価法33条に違反し、認可は取り消されるべきものである。

2.長野県内では約950万立米の発生土が生じるが、JR東海は切土工等または工作物の除去に伴う建設発生土についてのみ環境保全措置を検討。トンネル掘削発生土は環境影響評価をしていない。補正後評価書に記載された発生土置き場は8か所だが位置も一部しか明示されず運搬ルートも不明で、調査・予測・評価を行うべき対象又は項目が欠落している。

3.大鹿村の小日影鉱山跡について、JR東海は県知事意見を勘案し準備書に検討を加え、必要なものは評価法の修正区分に応じた措置を採っていると、国は主張している。しかし、補正後評価書では、施工中調査の計画についての漠然とした手順と共に、JR東海の意向表明に等しい記載のみで、具体的でなくどの程度の実効性があるかの記載もない。これでは環境影響の低減は図れない。

 建設工事に伴う副産物の処理・処分の方法のみで無害化の程度について記載がなく、これらの処置により「汚染はない」と結論付ける理由が不明。

 「薬液注入工法による建設工事の施工に関する暫定指針」に基づき施工しさえすれば汚染を生じさせないという予測は、強弁と言わざるを得ない。

 国民の生活環境に大きな影響を与える未曾有の大工事なのに補正後評価書には法令や指針を遵守し適切に処理するから環境影響は小さい旨の記載が幾つもある。意向表明のような記載で影響は小さいと考えられるのか。国民が納得できる計画でなければ認可すべきでない。

4.建設機械の稼働による二酸化窒素と浮遊粒子状物質の環境影響評価について、JR東海は2か所は通年、他は四季に各1週間のみの気象データを用いて予測した。県知事は四季各1週間のデータの信頼性、妥当性を検証するよう求めた。国は、JR東海は四季データと通年データによる予測結果の比較を表にして検証し、適切に対応していると主張している。

 しかし、風向・風速データのうち、対象計画施設付近の現地で測定した通年データは大鹿村の釜沢と高森町下市田の2か所。その他は四季各1週間のデータを用いたが、近傍の一般環境大気測定局のデータとの間で相関が得られなかった。結局、四季データを通年データとして用い予測したに過ぎない。JR東海は四季データが通年データを代表できるか検証したとするが、それはわずか2か所の通年調査地点の気象データを通年期間と四季調査期間について統計するというもので、これを根拠に四季調査地点においても年間の気象状況を適切に把握できるというJR東海の判断は杜撰。そもそも、四季データ調査点と近傍の一般環境大気測定局のデータの間に相関がなかった以上、四季データは通年データを代表できない。

5.長野県にはイヌワシ、クマタカ、ハチクマ、ハイタカ、オオタカ等、絶滅が危惧される種が少なくない。米テネシー州のテリコダム建設工事の途中、絶滅が危惧される魚種の生息が発見された。「絶滅に瀕した生物種を保護する法律」に基づき工事差止訴訟が提訴され工事が一時止まった。この訴訟は、絶滅の危機にある生物種という「計算できない価値」と「利便性のための出費」とは比較考量できるものではないことが、普遍的に重視されなければならない原則を示している。本件についても、裁判所が人類普遍の原則に拠って立つことができるのか問われている。

6.リニアの建設工事は確実に長野県内の住民の生活環境を悪化させている。大鹿村釜沢地区では土祝日も残土の仮置き場の作業の騒音に住民は苦しんでいる。道路は工事のため片側通行規制で長時間待たされる。村内の博物館等への進入路が工事用道路となりそれら施設に入りづらい、工事車両が増えたことで運転が怖い、走りにくいなどの声が出ている。大鹿の住民は観光客が全体的に減っていると感じている。また山の動物たちの出没が少なくなったという住民もいる。地区懇談会に先立ちJR東海が一部の住民に協力を求めるため住民の分断が生じたり、JR東海が住民に説明した内容を後日一方的に変更するなど、心痛や不信感を述べている。

7.結論:JR東海が実施した環境影響評価は、適切な調査・予測、評価を行ったとは言えない杜撰で強引なもので、工事によりJR東海の予測評価に反し住民の生活に悪影響が生じている。このような環境影響評価に依拠した認可は速やかに取り消して頂くよう求める。

関島保雄弁護士の解説(要旨)


 日本では、行政について国民に訴訟を起こされたくないという官僚の思いが強い。行政事件訴訟法というのは、その処分に法律的な自分の権利が侵害されたり、法律的に保護される利益がおかされる危険性が高いものしか原告になれないという規定がある。裁判の判例の積み重ねでこの規定は少しずつ広がってはきているが、まだまだ狭い。原告適格として主張しているのは:

(1)大量輸送交通機関では乗客の安全が確保されるべきという意味でリニアに乗る可能性がある人は原告適格があると主張。国は、それは一人一人についての問題ではなく国民全体の問題だから、裁判でなく、国会などで議論すべきと主張。私たちは鉄道事業法は個人個人の安全、権利を確保するためにあるのだから個人としての権利があると主張している。これは全原告に共通する権利。

(2)また、南アルプスの自然を守りたい、自然を守るという権利も全原告に共通するものだが、日本の裁判所は環境や希少種を守る裁判で個人個人の訴訟の権利を認めない。2001年のオーフス条約は、一人一人が原告として環境訴訟を起こす権利、自然保護団体のような団体が環境的利益を守ろうと裁判を起こしたり、政策形成に関与したりする権利を保障しようという条約。日本は加盟していないが世界の流れ。輸送の安全同様にハードルは高いが、一人一人が日本の環境を守らせる権利を主張できる場を保障すべきと裁判所に訴えていきたい。

(3)路線上に土地、立木など物件を持っている人について、国は工事の認可段階では直接の物件の権利を侵害するわけではないので原告適格はないと主張。物件所有者たちは、土地収用手続きが将来くる段階で訴えればよいという。土地収用法はもう両側は工事が進んだぎりぎりの段階にはじめて繰り出す伝家の宝刀のようなものでそうめったに使えるものではない。その段階まで訴えれないというのはおかしい。所有する土地が予定ルートにかかっているのは分かっているので、計画そのものが間違っているという訴訟が起こせて当然ではないかというのが私たちの3つ目の主張。主に山梨県について証拠を出したが国とJR東海はまだ事実について認否していない。

(4)原告の皆さんがどのような具体的な被害を受けるのかという大きな問題。たとえば騒音とか日照被害について、個々の原告の鉄道施設からの距離に応じて原告適格を主張している。さまざまの被害について取り上げた。たとえば神奈川県では半分が水源を相模川からとっているので飲料水の汚染という項目を入れた。準備書面に分厚い別表を添付した。

(5)残土捨て場が決まらないので、運搬ルートが分からない。捨て場やルートが来そうな人たちは騒音、大気汚染、渋滞などの生活妨害が起きる可能性があるので原告適格をかなり広い範囲で主張している。かなり先にならないと残土捨て場は決まらないので、ルートもアバウトになることを国も裁判所も認めざるを得ないと見ている。

 騒音、日照など具体的な被害を受ける可能性がある原告が数十人いる。立木トラストでは数百人になる。今回は一定の範囲で日常生活について深刻な被害が想定される原告が多数いることを裁判所に示し審理を促進させようと考えた。

 今後は、立証計画を立てて、輸送の安全、水の問題、あるいは、地質や地震の問題など、専門的な科学的な立証が要求される分野が出てくる。立証計画も深めながら証人を確保して、1年か2年かもう少しかかるかと思うが、裁判の全体の青写真をつくり裁判所に提起していきたい。皆さんには、そういう意味ではいろいろご協力いただくことがたくさんあると思います。よろしくお願いいたします。

本村伸子衆議院議員: 大鹿村では工事車両は一部が地権者の同意が得られず暫定ルートを使っているが、通行台数を増やすとJR東海が言い出した。住民の知らせを受け1月16日に大鹿村へ行き、JRの説明が信用できないこと、地権者の同意なしに確認書をつくったのが元凶とわかった。

畑野君江衆議院議員: 神奈川県伊勢原市では新東名のトンネル工事で栗原川上流の「三段の滝」が枯れた。

井上哲士参議委員議員: 辺野古では超軟弱地盤が大問題になっている。事前調査を十分しなかったため。地下の状況は分からないもの。無謀な工事はやらせるべきでない。

初鹿明博衆議院議員: JR東海は山梨県側のボーリング調査だけで静岡県の大井川の減水を予測。調査できない場所だったからという。そんな場所でトンネル掘削が必要なリニアは実現可能か。大深度地下では住民に対する影響が過小評価。民間事業でといいながら、30年据え置きで3兆円を国から借りるという特殊なもの。国会で実現可能性を明らかにする必要がある。

武蔵野大学工学部教授
阿部修治さん講演

「リニア新幹線:限界技術のリスク」

講演要約

 成功するか失敗するかの判断をしながらすすめていくのが技術開発。途中の失敗に目をつぶると限界まで無理を重ねる。それで、大きな損害、社会的な損失につながる、そういう例は多い。たとえばコンコルド。

 センスのよい技術はどんどん協力が広がっていっていろんな人や企業と協力しながら発展して普及していく。失敗する技術は、センスが悪いところがあって、それでも頑張るといって単独で無理をしてだんだん凝り固まって硬直していって最後は衰退していく。

 磁気浮上技術は1920年ころから主にドイツで開発されてきた。浮上させるのは困難な技術で80年代に技術的に完成した。これがドイツのトランスラピッド。450k/h程度の速さでモノレール式の線路上を浮上というか接触せずに走って行く。日本では60年ころから国鉄が開発を始めたのが今のリニアにつながる。磁気浮上式鉄道には、高速のトランスラピッドとリニア、そして低速のHSSTがある。

 トランスラピッドは技術的には容易なシンプルなものだったが、2000年ごろになって、退潮が明確になった。ドイツでは経済性と利便性という観点からハンブルグ・ベルリン間の計画が断念された。中国に輸出して上海に約30キロの路線ができ、将来的には上海市内からさらに杭州に延長する計画があったが住民の反対などもあり中止に。さらにミュンヘンの計画も中止になり、ドイツでは2011年には実験線も閉鎖され開発が完全に終わった。

 トランスラピッドは鉄道より低いコストを目指したが実現できなかった。理由は地上の全線に電磁石を精度高く敷き詰める建設コストと大きな電力消費による運行コスト。

 鉄道はもともと人の住む地域を線で結ぶもので沿線の町々を結ぶ。飛行機は遠く離れた地点を点と点で結ぶ。空港のあるところを多点で結ぶ。線路は必要ないのでネットワークが柔軟にできる。鉄道とは全く違うコンセプト(考え方)。

 ところがリニアは人の住むところを無視して二点間を結ぶ。通過するところでは利便性のない迷惑施設。飛行機と似ているのに線路が必要で、ネットワークをつくるほどには建設できない。飛行機と比べてもメリットがない。輸送機関としてコンセプトに限界があり東京・大阪間以外に開業できる見込みがなく、海外でも採用される見込みはない。

 JRリニアの技術評価としては、エネルギー消費が大きい。300キロの同じ速度でも新幹線より大で、500キロで走れば約4倍の消費電力になる。レールとの摩擦はないが、速度が効いてくる空気抵抗、磁気抗力やモーターとしての損失も不利。空気抵抗に対する車体の改良は新幹線で限界に近い。磁気抗力や損失はリニアモーターの規格で決まるので、実験線の規格で制約を受ける。鉄道であれば新しいモーター、新しい車両で省エネは進むが、モーターを地上の巨大インフラとして建設するリニアではできない。

 空力騒音は速度の6乗とか8乗に比例する。新幹線の倍の速度のリニアでは、ざっと20dB増加。ほとんどを防音フードで覆わざるを得ない。

 振動も速度と共に非常に大きくなる。列車は磁気バネの上を走っているので、実は小さく振動しながら走っている。またすれ違い時に大きな振動がおきる。車体の振動は乗り心地の問題。路盤の振動は高架部と地下部でもあり、場所ごとに条件が異なるので評価させる必要がある。

 側壁のコイルで車体を支えて浮上させるが、時速150キロぐらいまでの低速では浮力は不十分で、低速では支持車輪と案内車輪を出して走る。非常に複雑な仕組み。トランスラピッドは常時浮上しているので車輪はない。リニアは走り始めには車輪を出し、超電導磁石の中心が8の字型の浮上コイルの中心の位置になるようにして走る。速度が十分になって車輪を引き込むと列車は少し沈み込み、車体の重量と浮上力が釣り合う。車輪は浮力を補助しているのではなく列車の全重量を支えている。車輪は加減速のたびに出し入れするので故障はさけられずメンテナンスが必要。限界を追求したため、なかなか無理なことをしている。

 超電導磁石は磁力が非常に強く、鉄心がないので磁場が広がりやすい欠点がある。近距離では磁気シールドが必要で駅の搭乗口が複雑な構造になる。超電導磁石は簡単にオンオフできない。常時オンなので、非常時の避難や、点検の時も非常に注意が必要。線路に工具など落ちていればすべて引き寄せてしまう。医療用MRIでも酸素ボンベが引っ張られるなどの事故が起きている。

 磁場の人体への影響は実はまだよくわかっていないが、水のもつ反磁性から影響があることはたしか。

 ガイドウェイはコストがかかる。また、障害物と衝突すると破片がガイドウェイの中で動き回り車両にさらなる被害を生じる。注目すべきはガイドウェイの地上側のコイルが難燃性ではあるものの樹脂を使用している点。従来の鉄道トンネル内部にはこれほど大量の樹脂は使われていない。トンネル部が長いリニアでは非常に心配。

 超電導リニアは単独技術で競争がない。大量普及によるコストダウンもない。経験の積み重ねもない。安全基準もない。秘密主義で非公開技術が多く、公的な公共交通機関という認識が欠けている。住民の納得のないまま建設を強行する姿勢にそれが現れている。

 衝突時の衝撃力は速度の2乗に比例。リニアの500キロは高さ1000mからの落下に相当。 絶対安全というものはない。事故は小さな原因から拡大連鎖する。

 緊急ブレーキは平時全く使わないので緊急時に作動するかは難しい。常に飛行機並みの保守点検、テストを繰り返す必要がある。

 本来とてもそんなところにトンネルを掘ろうという考えはおきないようなところにトンネルを掘っている。無理を重ねているという特徴的なところ。空気抵抗を減らすためトンネル断面積は新幹線より大きい。したがって残土も多くなる。長大なうえに山岳地帯にあり緊急車両のアクセスが困難。断層の問題。気になるのは地上部との境目で、ゆれ方が大きく違うのでガイドウェイの変形が起きやすい。

 鉄道なら鉄のレールと車輪が支える列車の重量を超電導コイルと浮上コイルが支える。コイルや固定ボルトの劣化なども問題に。鉄道では車輪は固定されているが、リニアでは出し入れを繰り返す。非常に複雑な技術で、劣化しやすい部分が多く、飛行機なみの精度で点検保守するコストが必要。

 非常にシンプルなトランスラピッドでもコスト的に見合わないことが明らかだった。日本は独自技術にこだわって、さらに複雑で高コストなシステムになった。にもかかわらず建設を強行決定したので限界的な無理を重ねている。建設費の増大、建設期間の延長の可能性が大きい。住環境、自然環境の保全、輸送の安全にかけるべきコストが切り下げられる恐れがある。継続的な監視が必要。

お知らせ

●「ストップ・リニア!訴訟」の会計年度は毎年6月から翌年5月末までです。未納の方は各登録先への振り込みをお願いします。 また支援の拡大にご協力をお願いします。サポーター会費: 初年度 1口2,000円 次年度以降 1口1,000円 (原告は1口3,000円)。

●次回以降の口頭弁論予定

編集後記:傍聴券抽選、院内集会参加者数ともに約120でした。阿部さんの講演では多数の質疑応答がありましたが紙面の関係で割愛しました。"「計算できない価値」と「利便性のための出費」は比較考量できない"という視点と、リニアの技術自体が成功する技術か否かという論点は、リニアの問題を、環境、経済、社会など各方面にわたって総合的に考える上で重要と思いました。(今号の編集担当は長野事務局でした)