ストップ・リニア!訴訟 ニュース 第12号
更新:2018/08/13
「ストップ・リニア!訴訟 ニュース 第12号」が発行されました。掲載が遅れ申し訳ありません。「第10回口頭弁論とリニア・シンポジウム報告」(シンポジウム会場録音含む)で報告した内容と重複する部分があります。 ⇒ 印刷用のPDF
ストップ・リニア!訴訟 ニュース
第12号 2018年7月10日発行
発行 リニア新幹線沿線住民ネットワーク
http://linearstop.wix.com/mysite
車両基地など正確な位置や規模が不明なアセスによる認可は違法は
―6月25日第10回口頭弁論開かれるー
6月25日(月)午後2時30分から東京地裁で、ストップ・リニア!訴訟の第10回口頭弁論が開かれ、陪席裁判官1名が交替したため、リニア新幹線のアセスの杜撰さや、事故対策・避難対策の不備について、原告代理人の関島保雄、和泉貴士の両弁護士が改めて意見陳述を行いました。
被告国側は2通の準備書面を提出しましたが、これまで9回にわたる原告側意見陳述や求釈明に答える内容ではなく、古田重夫裁判長は国側に対し、山梨・静岡・岐阜以外のリニア関連の1都3県についても早期に主張を行うよう求めました。 古田裁判長は原告側にも「原告適格性」について、「いつまでに主張を行うのか」尋ねましたが、関島弁護士は、「国側が未だにルートや、車両基地、保守基地、変電所、非常口施設の正確な位置や規模について特定していないので、適格性を云々する段階ではない」 と、至極真っ当な考え方を示しました。
この日はこれまでの金曜日ではなく月曜日の法廷であり、また30度を超える猛暑となったため、傍聴希望者はこれまでより少なめでしたが、それでも120人が傍聴券を求めて抽選の列に並びました。 裁判の後、午後4時前から衆議院第一議員会館多目的ホールで報告集会と、第5回リニアシンポ『フリー記者から見たリニア新幹線と反対運動』が開かれ、約100名が参加しました。以下、意見陳述とシンポジウムの概要を報告します。
(午後1時15分~、東京地裁前集会)赤荻雅巳撮影
関島保雄代理人の意見陳述
1.被告国の準備書面(4)に対する反論
(1)国は、環境影響評価における施設の特定性に関して、参加人(JR東海)は個別の環境評価項目ごとに、仮定された諸施設の形状等に基づき環境影響評価を実施したと主張しているが、どのように仮定された諸施設を前提に、個別の環境評価項目ごとに、調査、予測、評価が行われたのか、仮定された諸施設の形状を具体的に明らかにすべきである。
(2)参加人の補正後評価書における対象施設の不特定性について。参加人の補正後評価書では環境影響評価における個別の評価項目において、必要とされる施設の特定性がないために適切な環境影響評価の調査、予測、評価がなされていない。
具体例を明らかにする。
①日照被害についての予測、評価について鉄道施設の特定は不可欠。参加人も地上駅、高架橋、橋梁、保守基地、変電所部分では日照被害が予測されるとしている。しかし、補正後評価書では、山梨県内の高架橋、橋梁部分に関する高さ15mから40mを6区分で日照時間を予測しているが22カ所に過ぎず、18カ所で限度時間を超えている。山梨県内のすべての地上施設を特定し、地域住民に影響を及ぼす日照時間ついて、日影図を作るべきである。
②列車走行による騒音の被害の予測、評価について鉄道施設の特定は不可欠。補正後評価書では環境基準を超える騒音被害が予測されている。例えば、山梨県の補正後評価書の予測値でも、走行騒音予測を14の代表地点中環境基準の75dBを超える77~79dBの地域が6カ所ある。防音壁を設置しても14カ所中6カ所で環境基準を超えていることから、広範囲の沿線住宅地で環境基準を超えていることが予測される。
③車両基地について施設が特定されていないため、環境影響が及ぶ範囲が確定していないなど具体性に欠け、補正後評価書の環境影響評価は不十分。神奈川県鳥屋の関東車両基地は長さ2.05km、幅550mの長方形の平面図しか記載が無い。ここにリニア工事による建設発生土360万を盛るわけで、基地の構造が明らかにならなければ周辺への環境影響も評価も出来ない。また岐阜県中津川市の中部車両基地も長さ2.2km、幅550mの長方形の平面図しかなく、規模も構造も全く明らかにされていない。この車両基地建設には300万の建設発生土が使われる。
2.発生土置き場に関する参加人の主張への反論
(1)工事認可時点での発生土置き場
リニア工事認可処分時に具体的に計画されていた発生土置き場は、山梨県早川町塩島地区の1カ所、静岡県は大井川源流部の7ヵ所にすぎなかった。
(2)認可後の発生土置き場の追加
①山梨県内の発生土置き場の追加について。山梨県早川町の発生土置き場は、本件認可時点では塩島地区1カ所約4万のみ予定されていたが、認可後に塩島地区に2カ所追加し3カ所になった。追加された2カ所3.5万を加えても7.5万に過ぎず、山梨県全体の発生土718万の大部分がどこに行くか不明である。また、発生土のうち約160万を山梨県の事業である早川・芦安連絡道路建設に使うことを意図しているが、自然豊かで急峻な山岳地帯であり、発生土置き場による新たな環境破壊が起きる危険性が高いばかりか、そこに使う量も明らかにされていない
②静岡県内の発生土置き場について。
本件認可後、参加人は扇沢をやめて、大井川源流部の燕沢に約360万もの巨大な発生土置き場を設置する計画を立てている。静岡県内で発生する土のほぼ全量を堆積させる。この発生土置き場は幅300m以上、長さ600m以上、高さ65mという巨大な盛土で、将来大井川源流部での崩落や土砂災害が起きた場合、ダム湖となり大規模災害を起す危険性が指摘されている。このような巨大な発生土置き場について環境影響評価書には全く記載されていない。
③長野県の発生土置き場について。参加人の主張によれば、長野県内には大鹿村に3カ所の仮置き場と大鹿村旧荒川荘跡地への発生土置き場、及び、豊丘村本山の発生土置き場が決まっているとのことであるが、これらはすべて本件認可後に決まったもので、環境影響評価をされていない。旧荒川荘跡地への処分量は約3万であり、大鹿村で発生するリニア残土302万の1%にすぎない。また、旧荒川荘の跡地は4000平方メートルで、ここに高さ15mの発生土を積み上げれば、小渋川への崩落の危険が指摘されており、長野県は、環境保全の助言を行っている。発生土置き場に相応しい場所ではない。大鹿村の仮置き場も3カ所で約22万で、大鹿村での発生量の7%に過ぎず、ほとんどの置き場が決まっていないことがトンネル工事が進まない原因となっている。
3.中央構造線におけるリニア工事の危険性
平成29年12月15日、長野県中川村の松川インター・大鹿線道路トンネル新設工事(四徳工区)工事現場付近で土砂が崩落し、平成29年12月29日まで全面通行止めとなり、平成30年2月5日に完全復旧するまで大鹿村は片側通行などの不便を強いられた。この事故はJR東海のリニア工事用道路建設のためトンネル掘削の際に発破(ダイナマイト)を使用したことで振動が繰り返され、その影響で既存道路の壁面が崩落したものであると、参加人も認めている。 もともと、大鹿村は中央構造線の断層上に位置し、谷の両側の山は崩れやすい。ここにトンネルを掘れば工事の振動で山肌が崩落する危険性は以前から指摘されていた。今後も中川村で起きたような崩落事故が発生する危険性は高い。
リニア関連工事で崩落事故(長野県中川村)
和泉貴士代理人の意見陳述
原告は準備書面12・11ページにおいて、山岳トンネルにおける安全性の有無について釈明を求めた。具体的には、参加人の計画によると山岳地帯における非常避難路そのものは、山梨県南巨摩郡の3900mをはじめ静岡県では3500m、その他2000mから3000m台のものもある(訴状33ページ)。これらについて、事故時の避難経路など安全性の具体的な検討がなされたことを明らかにするよう求めた。 これに対し、被告国は、乙50号証、平成21年7月28日付の「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価」において具体的検討がなされている、また、平成22年4月15日に開催された交通審議会の第2回小委員会において、技術的な問題の検討事項について、技術評価委員会の結論を覆すほどの根拠は現時点では存在しないことが確認されていると回答した。 しかし「超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価」が作成されたのは平成22年4月15日であり、この時点では中央新幹線の具体的ルートは決定されていない。
(JR東海の山岳トンネルからの脱出方法)
また、「超電磁気浮上式鉄道実用技術評価」では、被告も引用する通り、超電導磁気浮上式鉄道におけるトンネル区間の避難に関し、「トンネルの坑口、立坑口、斜坑口及び作業トンネルへの出入り口等を通って、外部に避難する」と記載されているのみである。
平成20年12月の中央リニア調査有識者委員会におけるとりまとめの概要でも、「エ、万一トンネルの途中で停止した場合の避難方法」として、「・新幹線と同様に車両に具備した梯子により車両から中央通路へ降りる。・中央通路からは階段を降り、シールドトンネル下部の避難通路へ避難する。・その後、最寄駅及び立坑へ移動し、地上へ避難する。」と記載されているのみである。これらの記載からは、山岳トン ネルにおける事故の際には、「車両から梯子を使って 通路に降り、避難通路から斜坑を経由して地上に出る」と言う検討がなされたということしか読み取れない。全く具体的な検討がなされていない。また、避難所要距離、避難所要時間が極めて長くなることに対する検討がなされていない。地下空間において避難が必要となる災害の原因として想定しうるものは、テロ、何らかの理由による火災、地震、停電など多岐にわたる。乗客の生命の安全を確保するためには、可能な限り短時間で避難及び負傷者の病院への搬送を行わなければならない。たとえば、昭和50年に発生した上越新幹線大清水トンネル工事火災事故 では14名の作業員の命が失われたが、原因は避難経路が群馬側で5.3km、新潟側で15kmと長かったことが挙げられている。リニア中央新幹線の山岳トンネルについても、車両から非常口入り口までの距離が最大2.5km、非常口入口から地上出口までの距離が直線距離で最長3.9kmとなり、地上に脱出するまでにかなりの 長距離を移動しなければならない。さらに、地上に到達したとしても、そこは市街地から離れた山岳地帯であり、多数の負傷者を救急車に乗せて搬送する場合さらに相当の時間を要することになる。
東海道新幹線での焼身自殺事件では2名が死亡、28人が重軽傷を負った。(2015.6.31 東京新聞)
例えば、静岡県の大井川源流地域の非常口から負傷者を救急車で搬送する場合、重症の負傷者は静岡市の二次救急施設に搬送せざるをえず、107kmもの距離を5時間以上かけて移動することが必要となる。それにもかかわらず、避難所要距離や時間、負傷者の搬送時間について具体的検討がなされた形跡がない。
その他、2~3名の乗務員が1000人もの乗客を誘導することによって生じる混乱、避難時に超電導磁石の近くを通過することによる身体への影響なども検討された形跡がない。さらに留意しなければならないのは、テロや乗客による殺傷事件に対する対応が検討されていないことである。平成27年6月9日には、東海道新幹線の社内で乗客3人が刃物で殺傷される事件が発生したことは記憶に新しい。テロや乗客による殺傷行為の場合、被害の拡大を防ぐためには危険物の持ち込み禁止、手荷物検査などが必要となるが、1000人もの乗客を乗せて10分程度の運行間隔で発車する中央新幹線において手荷物検査を行うことは極めて困難である。これについても具体的検討がなされた形跡がない。詳細は準備書面17で再度の釈明を求めるが、各非常口入り口から地上までの避難所要距離、移動手段、避難所要時間、地上への移動中に一時避難場所は設置されるのか、非常口から負傷者を医療施設まで運ぶための具体的ルート、救助隊の待機場所及び非常口までの到達予想時間等を明らかにするよう求める。
第5回シンポジウム フリー記者から見たリニア新幹線
6月25日午後の報告集会のあと、ストップ・リニア!訴訟の第5回シンポジウム『フリー記者から見たリニア新幹線』が行われ、樫田秀樹さん、宗像充さん、井澤宏明さんのフリー記者3氏が、リニア問題にこだわる理由や、沿線住民のリニア見直しの活動について意見を交わし、私たちに示唆を与えてくれました。
樫田さんは山梨実験線の建設に異を唱える山梨県民の取材をきっかけにリニア問題に関わり、JR東海による取材禁止や、意に沿わない記事に対する抗議などを受けながら住民に寄り添う取材を重ねて来ました。その経験を基に「リニア建設で困っている地権者に対し全体の動きを情報として伝え、自分たちだけでなく他に同じ地権者がいることを知らせて、住民を孤立させない活動が必要である」、「裁判や署名などアナログな活動と共にブログなどのネットを活用した情報の共有化などデジタルな活動を進めることを求めたい」と発言しアドバイスを送りました。
宗像さんは現在大鹿村に住んでおり、住民としてもリニア残土の処分問題やトンネル工事による南アルプスの自然破壊について、ブログなどで情報発信を続けています。宗像さんは「沿線の皆さんの活動はおとなしすぎるという印象がある」と述べたうえ、国やJR東海に対し「リニアの弱点をもっと強く突くべき」と発言し、迫力ある活動を行うよう助言しました。
井澤宏明さんはリニア問題に関わったのは3年程前と述べたうえで、19年間の新聞記者経験を活かして、住民と共に国とJR東海の姿勢を追及して行きたいと述べ、住民運動と連帯する姿勢を示しました。