更新:2018/06/11
駅周辺整備の説明を拒否、北条地区説明会で住民、6月7日
“移転を余儀なくされるという言い方をするが、自分はここから移転する気持ちはないので、余儀なくされるとは思わない。”
6月の6日と7日、風越山トンネルの工事に関係する、飯田市の座光寺地区と上郷飯沼北条地区で工法の変更についての説明会がありました。合わせて、飯田市は移転対象者の代替地関連の道路の整備計画と、リニア関連事業に伴う都市計画決定と変更についての説明をしました。北条地区では、加えて駅周辺整備の基本設計についての説明が予定されていました。
シールド工法も可能
飯田市上郷北条地区のリニア新幹線の中間駅の名古屋側から松川までの間は風越山(かざこしやま)トンネルの建設が予定されています。このトンネルは当初NATM工法が予定されていました。しかし、トンネル上部で地下水の利用が多く、影響が心配されていました。JR東海は水への影響が少ないとの理由でシールド工法が可能か調査をしてきました。
JR東海は2016年度から追加の地質調査を行いシールド工法でも工事が可能との結論に達したと説明しました。シールド工法は巨大な石や高い地下水位を苦手としますが、調査の結果では巨石はあるものの「軟らかくなっている可能性が高いこと、地下水位が特に高い区間は短い」ことが分かったとしています。
シールド工法では本トンネルの坑口のできる北条地区から残土が出てくることになり、その点を住民は心配していました。JR東海は、トンネルの工事施工ヤードは北条から北へ約400mの土曽川施工ヤードとし、そこまでの間はベルトコンベヤーで残土を搬出すると説明しました。土曽川ヤードから先の運搬はダンプカーの使用となります。この説明は、6日、7日ともに同じものでした。
地元紙の『南信州』は、両説明会の記事(8日、9日の1面トップ)のなかで北条から土曽川ヤードまでの間に新たにトンネルを掘削してベルトコンベヤーを設置すると報道しました。これは明らかに誤報です。岐阜県瑞浪市の南垣外で設置されているように高架(足場)の上にベルトコンベヤーを設置するものと思われ、騒音問題が懸念されます。
風越山トンネルの西側部分はNATM工法で掘削するのでシールド工法との接続をどこでするのかは未定とのことで、これまで提示されてこなかった中間に位置する黒田斜坑口からの斜坑と本坑との接続箇所についても未定とのことでした。シールドマシンの回収は発進立坑から行う予定で到達点に立坑を掘ることはしないと説明。
なお、ボーリング調査は計画は15か所で、13か所が済んだ時点での報告ということでした。シールド工法が苦手とする地下水位の高い場所から西の2か所がまだ未調査です。
駅周辺整備の説明に住民が反発、飯田市は立ち往生
北条の説明会では、リニア駅周辺整備基本計画についての説明がJR東海の説明の次に行われました。この説明の途中で、住民から移転をしなくてはならない立場からすれば、飯田市がまず解決すべきことは、移転せざるを得ない人たちの、移転先の問題で、それが聞きたいから会場に来ているのに、駅周辺整備の説明は失礼ではないか、住民軽視ではないかという指摘がありました。もう止めろという声がでて、多くの人が、その声に同意を示したので、飯田市は駅周辺整備の説明を途中で中止せざるを得ませんでした。
代替地整備計画の説明についても、道路整備の説明であり、代替地は買えるのか、借りることになるのかといったことの方が問題だと住民から指摘がありました。
説明会でだされた住民からの主な意見は:
- リニアの路線は大半が地下だが、ここは明り部だ。地上にしたのでいろいろな問題が出てきている。
- トンネルの入り口付近は、新戸川の沢の切れ込みによりトンネルの肉厚が薄くなるはず。がけ崩れなど上部に住む人に危険がある。地形の危険性について以前から指摘しているが、JR東海は長野県にお願いしているからで済ませている。JR東海自身が真剣に考えるべきだ。
- 工法の変更は工事をする側の都合であって、シールド工法でもNATMでもトンネルを掘れば、地下水はトンネルの周囲を流れていくので、地下水への影響があることを説明すべき。
- ベルトコンベアのルート付近にはアパートなどあって住民に影響がでる。土曽川斜坑から掘るのは影響を少なくするためだったはず。当初の発表を守るべきだ。いいかげんな計画の提示は困る。
- ベルトコンベヤーの構造や規模をしめすべき。
- 飯田市は住民の意向とは何か考えるべきである。飯田市の説明が住民の意向にそったものでないから、出席者が次第にへってきているではないか。
- こういう会に出てきて初めて知ることが多いが、事前に連絡や話がないが、こういうことを誰が決めるのか。
- 丹保地区の代替地は農地で農振解除が必要だが解除できない。それは飯田市が一括して買い取ってから解除手続きをするからだというが、5年も前からお願いしているがどうにもならない。農振解除の費用について公平になるように。
- 飯田市長はリニアについてビジョンを市民にきちんと示すべきだ。それをしないから、話が進まないのだ。
- 移転対象者に寄り添うというなら、こういう説明会には飯田市長自身が出席すべきだ。1度か2度しか来たことがない。
市民生活の無視と分断化
座光寺会場で代替地整備計画の説明でスライドで座光寺地区の地図を示しました。本来は代替地として検討すべき場所に、南信州広域連合が「リニアを見据えて」計画しているコンベンション施設の候補地と記されていました。参加者が地図の配布を要望すると、飯田市は非常に歯切れの悪い回答をしていました。リニア駅の南側にもコンベンション施設の候補地があがっており、飯田市や商工会議所や農業団体の「リニアの夢」への前のめりの姿勢は明らかで、住民の移転対象者が視野に入っていません。このような飯田市の姿勢にたいして北条の説明会では「移転を余儀なくされるという言い方をするが、自分はここから移転する気持ちはないので、余儀なくされるとは思わない。」と住民の声があがりました。
工法の変更は、坑口付近の地区だけでなく、トンネル上部にあたる上郷地区の黒田地区の問題でもあるはずです。工事を担当するのは北陸新幹線のトンネル工事で地盤沈下や陥没事故を起こした鉄道建設・運輸施設整備支援機構です。今回の説明会については、黒田地区に連絡があったという情報はありません。説明会のタイトルも明らかに北条地区と座光寺地区だけでした。住民が共有すべき重要な情報を説明会を個別の地区ごとに分けることで住民を分断しようとしています。
(文責・春日)