ストップ・リニア!訴訟・第5回口頭弁論(3)
更新:2017/06/29
6月23日の第5回口頭弁論で最初に行われた、大町市の金枝弁護士の意見陳述の原稿を掲載します。金枝弁護士が陳述の中で触れている「座光寺の農村原風景継承地域」の写真をこちらに掲載しました。
平成28年(行ウ)第211号 工事実施計画認可工事取消請求事件
原 告 川村 晃生 外737人
被 告 国(処分行政庁 国土交通大臣)
参加人 東海旅客鉄道株式会社
意見陳述書
2017(平成29)年6月23日
東京地方裁判所民事第3部B②係 御中
弁護士 金 枝 真 佐 尋
1 はじめに
代理人の金枝から意見を述べさせていただきます。私の陳述では、環境影響評価に関連して意見を述べます。
2 事業計画地の様子
⑴ まず、長野県内の事業計画地の状況を紹介します。
長野県は、本州の内陸に位置し、日本の屋根と呼ばれる日本アルプスを擁しております。日本アルプスは、北アルプスと呼ばれる飛騨山脈、南アルプスと呼ばれる赤石山脈、中央アルプスと呼ばれる木曽山脈の総称です。
リニア中央新幹線のルートが計画されているのは、この、南アルプスと中央アルプスが並走する地域です。
計画によりますと、長野県駅は、飯田市上郷飯沼に設置されます。そして、山梨県との県境には、延長約25キロの南アルプストンネルが掘削され、岐阜県との県境には延長約23キロの中央アルプストンネルが掘削される計画になっています。また、県内を流れる天竜川には延長522mの橋梁が架設される計画になっています。県内の山岳部に非常口が11箇所設置され、大鹿村の大河原(おおかわら)地区と豊丘村の神稲(くましろ)地区に変電施設が各1箇所造られ、飯田市座光寺地区に保守基地が造られる計画になっています。
⑵ 各自治体の紹介
リニア中央新幹線のルートが計画されているのは、長野県内の地域区分でいいますと、南信、あるいは南信州と呼ばれる地域です。ルートが計画されている自治体には、大鹿村、豊丘村、喬木村、飯田市、阿智村、南木曽町があります。
ア 大鹿村
大鹿村は、南アルプスと伊那山地に挟まれた山間にあります。中央構造線が村内を南北に通って(とおって)います。天竜川の支流である小渋川が流れています。小渋川の先には、南アルプスの主峰、赤石岳を望むことができます。大鹿村では、江戸時代から村人によって大鹿歌舞伎が受け継がれています。
イ 豊丘村
豊丘村は、日本一とされる河岸段丘の中心に位置しています。中央新幹線の変電施設は、段丘中段に位置する現在果樹園のある場所に計画されています。
ウ 喬木村
喬木村は天竜川東岸の河岸段丘に位置しています。また、阿島の大藤が名所となっています。
エ 飯田市
飯田市ですが、中央新幹線のルートが計画されているのは、座光寺地区です。ここは、養蚕で栄えた地域です。白塗りの土蔵を持った大きな家が段丘に開かれた田んぼの中に点在しております。ここの景観は、座光寺地区の「農村原風景継承地域」と命名されています。
オ 阿智村
阿智村は環境省により「星が最も輝いて見える場所」第1位に認定され、「日本一の星空」が見られる地域として、多くの観光客が訪れています。また、「美肌の湯」とされる「昼神温泉」にも多くの観光客が訪れます。
カ 南木曽町
南木曽町(なぎそまち)は木曽谷の南端に位置し、中央を木曽川が流れています。木曽路の宿場町の一つである妻籠宿があります。木曽檜の産地です。
3 環境影響評価手続の問題点
⑴ 総論
次に、環境影響評価手続の問題点を述べます。原告代理人は、準備書面6において本件認可の環境影響評価法33条違反について主張しました。具体的には、参加人の実施した環境影響評価手続が、大きく分けて2つの観点から法33条に違反することを主張しました。1つ目は、環境影響評価を行う対象が不明確または不確定であるという観点です。2つ目は、環境影響評価手続において調査・予測・評価を行うべき対象もしくは項目が欠落している、あるいは、調査・予測・評価を行ったと評価できないという観点です。
⑵ 計画内容の不明確性
まず、1つ目の観点、すなわち、計画内容の不明確性について述べます。
参加人の主張によりますと、鉄道事業法に基づいて建設される比較的路線延長の短い在来鉄道などとは異なり、新幹線鉄道の場合には、技術的特性から、工事実施計画認可の時点では各施設の詳細な計画はなされず、その後の用地取得や設計等を行う中で詳細な計画を決定することになる、とされています。
しかし、中央新幹線の場合には、路線延長の短い在来鉄道とは比較にならないほど大規模な環境改変を伴います。それなのに、不明確な計画内容についての環境影響評価で足りるとすれば、事業による環境影響を可能な限り低減させるという環境影響評価法の趣旨が没却されてしまいます。
したがって、環境影響評価は、事業の規模を問わず、評価したといえるだけの最低限の実質がともなわなければなりません。そのためには、本線や駅、保守基地の配線、変電所等の施設が、相当程度具体的に計画されることが大前提となります。
この点に関して長野県内の計画をみるとどうでしょうか。長野県内の環境影響評価関連図は、全部で11あります。そのうち、東京方面から数えて4番目の図から6番目の図を見てみましょう。まず、4番目の図です。この図は、長野県の豊丘村を本線が通過することを示しております。本線は、このように中心線が示されているのみです。そして、非常口についても、概ねの位置が円で示されているのみです。次に、東京方面から5番目の図です。この図は、本線が豊丘村を出て喬木村を通過し飯田市に入ることを示しております。変電施設と保守基地は、いずれも概ねの位置が円で示されるのみです。次に、東京方面から6番目の図です。この図は、本線が飯田市を通過することを示しております。長野県駅もまた、概ねの位置が円で示されるのみです。このように、本線、非常口、変電施設、保守基地、長野県駅、いずれを見ても具体的な形状や大きさは明らかにされておりません。
このように、参加人の事業計画は、環境影響評価を行うにあたり、その対象が不明確と言わざるをえません。これでは、実質の伴った環境影響評価ができるはずがありません。
⑶ 必要な調査対象又は項目の欠落
次に、環境影響評価法33条違反の2つ目の観点、すなわち、評価項目の欠落等に関して述べます。
ア そもそも、環境影響評価の機能・役割は何でしょうか。かつて、環境の質の劣化を司法の場で争う際に、環境権という概念が提唱されました。しかし、これまでに明示的に環境権を認めた裁判例はありません。その理由を考えてみますと、環境に対する国民の利益が公共財的性格を持っているためであることが挙げられます。伊達火力発電所事件の裁判例では、「人の社会的活動と環境保全の均衡点をどこに求めるか、環境汚染ないし破壊をいかにして阻止するかという環境管理の問題は、優れて、民主主義の機構を通して決定されるべきものである」という考え方が示されています。
環境権が認められるべきであるか否かはひとまずおくとして、伊達火力発電所事件の裁判例で言及されている、「民主主義的決定」に注目すべきです。つまり、「環境の質の確保は、環境資源に対して価値観の異なる者が討議を重ねることによってなされるべきだ」、このような考え方に注目すべきであると考えます。
ここにいう民主主義的決定は、価値観を異にする者どうしの討議のプロセスに重点を置くものです。したがって、これは、立法過程での意思決定にとどまりません。市民参加が予定されている手続や地域を代表する者の意見が反映される手続もある種の民主主義的決定ということができます。
このように考えてゆくと、環境影響評価手続に与えられた機能・役割は、環境の質を確保するうえで、極めて大きいものであります。住民・知事等の意見を尊重したうえで調査・評価がなされて初めて環境の質を確保した事業といえるのです。そして、これらの意見を適切に踏まえることこそが、環境影響評価手続に民主的な正当性を与える肝ということができます。
イ では、この度の環境影響評価手続において、住民や知事等地域の意見は適切に踏まえられたのでしょうか。この点については原告の意見陳述の中で詳しく述べますが、意見が適切に踏まえられたとは言えません。
⑷ まとめ
以上述べた二つの観点から、国土交通大臣の行った本件工事実施計画認可は、裁量の逸脱・濫用があり、環境影響評価法33条に違反すると主張するものであります。
以上