ストップ・リニア!訴訟・第5回口頭弁論(2)

更新:2017/06/26

 公判冒頭の、裁判長、原告代理人(弁護士)、国側代理人とのあいだであったやり取りについて、公判後に行われた「提訴1周年記念シンポジウム」の中で関島弁護士による論点解説がありましたので紹介します。

 100人を超える傍聴人があり皆さんに感謝しています。多くの傍聴人があるということは裁判の進行に影響を与える。本日は30分の陳述の予定が45分に延びたが裁判長も文句も言わず認めていた。これも毎回多くの傍聴人がいるから。今後もこういう状態が続くようお願いします。

 今日は、長野県の被害というか、環境影響評価の問題点を中心にして、豊かな自然がどのように壊されようとしているのか、住民の生活や安全が破壊されようとしているのかということを中心に書面を出し、弁護士の金枝先生、原告の谷口さん、米山さん、合わせて3名が陳述をした。パワーポイントでは今回は、ドローンを使って撮影した大鹿村の上空からの映像が非常に美しく、谷口さんが住んでいる、大鹿では一番奥の釜沢地区の、山の斜面に10軒程度の家々が並ぶ集落の様子がよく分かった。自然の豊かな貴重な山村である大鹿を中心に伊那谷、飯田地区の豊丘村、座光寺、あるいは阿智村、南木曽町、どこのまちも豊かな自然が壊されようとしている実態が明らかになった。

 裁判で我々が主張しているのは、そもそもJR東海がどのようなリニアの工事をしようとしているのか、どういう申請をしているのかという点。それを国交省が認可したのだが、どういう施設が出来るかはっきりしていないではないかということ。今作ろうとしているものを特定していない。提訴の時から主張していることである。

 JR東海は、アセスメントでは方法書、準備書、評価書、補正版評価書と4段階でアセスを行ったが、その過程で鉄道施設の具体的なものを小出しにしてきている。鉄道施設は初めは丸印で示されただけだった。車両基地なども四角で示しただけで、長さも幅も、構造も何階建てなのかもわからないいい加減なものだった。トンネルの非常口も丸印で示しただけであった。変電所もそうだった。場所がどこなのか、どんなものができるのか、全く明らかにしないまま環境影響評価をして、それをそのまま国交省は認可した。こんなことが許されるのか。造るものによって環境が壊されるのだから、どういうものが造られようとしているのか、造られるものによりどういう環境への影響があるのか、造るものがはっきりしていなければ、環境にどういう影響を与えるのかは予測しようがない。認可をしたそのものの特定を欠いているのであり、それによる環境影響評価がされたというが、どういうものが造られようとしていて、そのために地域の環境が壊されようとしているのか、あるいは、影響を受けるのか、それをどう防ぐのかが、特定されていない以上は、環境影響評価としては違法な間違った環境影響評価だと主張している。

 ようやく今回国は事業認可の工事申請書を証拠として出してきた。これは一番初めから出してきてしかるべきものである。われわれは裁判所に、そもそも何を認可したのか、どういうものを造ろうとしているのか、証拠が出ていないということを主張し、裁判所もそれを出すようにいってきた。ようやく申請書とそれに附けた図面、平面図、縦断面図を出したが、これを見ても抽象的であって、図面といっても駅などどういうものができるのかは見ただけでは分からない。保守基地、車両基地もどんな建物ができるのか書いてない。そういう意味で、何を造るかはっきりしないものを国交大臣は認可している。造るものがはっきりしないのに認可したのはおかしいというのが我々の争点である。

◎ 裁判長が話したことについて

 認可は全国新幹線整備法で認可は行われた。この法律の規定には、認可の要件が示してない。リニアは東京と大阪を結ぶだけである。鉄道とはいっても、浮上方式であり、在来型の新幹線と繋がっていかない。モノレール同様に駅で乗り換えが必要だ。こういうものを全国新幹線と言えるのか。もともと新幹線整備法とは、全国を新幹線のネットワークで結ぶというもの。ネットワークなら北海道から鹿児島まで、レールがつながっているのだから、新幹線に乗ったまま移動できる。そういうものがネットワークというものであって、リニアはネットワークにならない。それに全幹法を適用するのは間違っている。

 全幹法の母法、もとになっている法律が鉄道事業法。私鉄なども路線建設にはこの法律に基づく許可を必要とする。JR東海は民間企業である。もともと全幹法は国鉄の時代からあったもの。新幹線建設は、国の国有の財産として国の中でやっていた内部機関の手続きでやって来た。今回初めて民間企業であるJR東海に建設と営業を認めるというやり方をした。しかし、全幹法はそういうことを想定していない。

 鉄道事業法には、第5条で認可の4つの要件を定めている。経営の健全性、つまり採算性があるか、輸送が安全性であるか、環境への影響を含め適切な対応をしているか、建設後も安全、健全に事業が継続できるのかというものがある。われわれはリニアには経営の健全性と安全性がないと主張している。鉄道事業法に違反している。そういう要件がないのに全幹法で認可するのは間違い。

 裁判官も全幹法の規定にはないが、鉄道事業法でいう要件について、これをクリアする必要があるかと国に説明を求めて来た。今回はじめて国側は、鉄道事業法の特別法として全幹法があり、建設主体の指定、営業主体の指定、建設指示、それから整備計画、その過程の中で、輸送の安全性や経営の健全性についての要件が必要とされ議論されて来ているので、その過程で瑕疵(間違い)があれば、今回の工事認可は違法となるという理屈は認めるという書面が出された。

 2011年の5月に一斉に、5月20日に建設主体、経営主体をJR東海に指定が行われ、5月26日には中央新幹線の整備計画を決定、それに基づき27日に建設を指示している。この過程の中で、鉄道事業法の定める4つの要件がきちんと検討されていないということになれば、違法になるという論理になると、我々は主張している。国側は、国交大臣には広範な裁量権があって、交通政策審議会鉄道部会中央新幹線小委員会で専門家たちに議論させ、要件は満たされているから建設主体、経営主体の指定、建設の指示を行ったのだから瑕疵はないと主張している。しかし、どういう議論がなされたかその証拠は出ていない。審議会では1年しか議論しておらず、4つの要件について十分な議論が尽くされたとは思えない。そういう問題を裁判を通して明らかにしていく。

 裁判長が鉄道事業法の適用にこだわらなくても良いのではないですかと原告側に言っていたのは、われわれは鉄道事業法を適用すべきなのに全幹法の適用は違法と主張してきたが、全幹法の適用で認可するとしても国側は4要件のクリアは必要と認めたのだから、そこにあまりこだわらなくても良いのではないかという意味。

 鉄道事業を巡っての法の仕組みが、新幹線というだけで、乗客の安全性とか環境への影響の問題などについてきちんとクリアさせずに計画が進めれる状況にある。環境影響評価についていえば、新幹線技術の特性から認可の時点では計画は概要で良いとJR東海は書面で言っている。

 きちんとした計画を示せば、いろいろな地域から反対が起きる。残土問題についていえば、残土を持っていく先の住民から反発を受ける。残土を置けなければトンネルは掘れない。残土を持っていく先も決めないまま、とりあえず認可をとってしまって、できるところから工事を始めよう、そのうちに世論を自分たちの都合の良いように導いて工事を完成させようとしているように見える。それまでは、手の内をあまり見せないというのが今のJR東海のやり方に見える。民主的な環境影響評価や行政システムとしては間違っている点を明らかにしたいと思う。

以下、参考として鉄道事業法の第5条を紹介します。

参考:鉄道事業法

(許可基準)
第五条 国土交通大臣は、鉄道事業の許可をしようとするときは、次の基準に適合するかどうかを審査して、これをしなければならない。
 一 その事業の計画が経営上適切なものであること。
 二 その事業の計画が輸送の安全上適切なものであること。
 三 前二号に掲げるもののほか、その事業の遂行上適切な計画を有するものであること。
 四 その事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること。