平成28年(行ウ)第211号 工事実施計画認可工事取消請求事件

原告 川村晃生 外
被告 国(処分行政庁 国土交通大臣)
参加人 東海旅客鉄道株式会社

意 見 陳 述 書

2017(平成29)年4月28日

東京地方裁判所 民事第3部 B②係 御中

原告 野澤今朝幸

原告野滓今朝幸が意見陳述をします。

 私は笛吹市の市議会議員を勤めています。 日頃よりとりわけ人権と環境には強い関心をもち、議員活動をしています。この度の意見陳述は、リニア実験線にかかわる、その沿線住民からの聴音取り及び現地視察に基づくものであります。

 笛吹市にはリニア実験線がほぼ東西に走っており、市内における延長は約14.0kmであり、そのうち、トンネル部分が約9.7㎞、高架橋・橋梁部分が4.3㎞であります。市内の境川町小山地区において、全長42.8㎞のリニア実験線は西端の終点となっております。

 わずか14.0kmの延長とは言え、トンネル部分と高架橋・橋梁部分からなっているため、それぞれが抱える問題が発生しています。

 まず、トンネル掘削に伴う問題であります。水枯れの問題であります。飲み水に使っていた井戸本は枯れ、また、水田の用水として利用していた谷川の本も枯れています。沿線の御坂町上黒駒地区・大野寺地区、八代町竹居地区・奈良原地区等で、水枯れが発生しています。

 しかしながら、トンネル掘削による本環境への影響が、地下水を含め、具体的には、どのくらいの範囲に及び、またどの程度のものか、まったく見当がつかないというのが、実際のところです。それは工事着工の前に当然実施すべき環境影響評価(アセスメント)が正式にはなされていないからであります。

 御坂町上黒駒のトンネルロの脇からは、毎分30トンという水が止めどなく流出しています。カチッという1秒に0.5トンもの水が流出しているのです。この水量から想定してみても、トンネル掘削による本環境への影響は、かなり甚大なものかおるごとに確かであります。

 また、地表の水が失われることによって、水飲み場やヌタ場を失ったイノシシやシカなどの大型獣が、周辺の人里近くまで降りてくることが、以前より頻発し、いわゆる「獣害」が発生しています。とりわけ、イノシシは臭覚に優れ、収穫間際の農作物を狙いますので、目前に収入を失うことになった農業者の方々の落胆ぶりは甚だしく、それが耕作放棄地の拡大にもつながっています。

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 次に高架橋・橋梁整備に伴う問題でありますが、日照が遮断される問題があります。地上20mも30mもある高さの所に巨大な土管のようなフード付きの軌道路面が横たわり、お日様の光を遮るわけであります。しかも笛吹市内にあっては先にも述べたようにほぼ東西にリニアは走っているため、日が低くなる晩秋から冬を越して初春まで、場所によってはまったく一日中、日の当たらないところも発生しています。それは、そこに居住している人間に対してはいうに及ばず、日本一の果樹地帯であるだけに果樹(主に桃・ぶどう)に対しても多大な被害を与えています。果樹への影響については、全く事前の調査はなされず、したがって、農家への説明も一切ありませんでした。被害に対する補償は、事後的に市場取引等を参考にしてなされており、被害農家にとっては不十分なものであります。なかでも観光農園で生活を立てている被害農家は、まったく不利な補償となっており、店じまいを考えざるを得ない状況となっています。

 居住者に対する補償も不十分極まりないものであります。それは、現に居住している家族員数で30年間補償するというものです。この辺は農家がほとんどであり、したがって、住居は大きく広い、そのうえ、住んでいる人数は、高齢者のみというように少ない。こうしいう条件で、人の頭数で、暖房の灯油代、電気代、乾燥にかかる費用を積算して補償してちらったからと言って、果たしてこれで、普通の人間的な生活ができるでしょうか。

 実例を述べさせていただきますが、ある農家ではFAXのインクは凍るようになるし、日の当たらない池の鯉は凍死してしまったそうです。また、その農家は、9月中旬ころからリニアによる日影が毎日少しずつ家の方に迫ってきており、それに圧迫された奥さんは、とうとう円形脱毛症を患うことになってしまいました。

 いま、具体的にトンネル掘削による水枯れの問題と、そして高架橋・橋梁整備による日照の問題を述べさせていただきました。ほかにも、残土処理の問題、トンネル出入口の騒音の問題、景観破壊の問題なども発生しております。また、電磁波による人体への影響も懸念されるところであります。

 しかしながら、JR東海は、私たちが訴状で述べたように山梨実験線に関しては正式な環境影響評価(アセスメント)はしていません。そのことを逆手に取って、つまり環境の悪化を客観的に示す指標がないことをいいことに、どうしても言い逃れのできない被害だけに、弥縫的に最低限の補償をするという形で対処する、これがJR東海の実態であります。

 リニア実験線の沿線に住む生活者の実感を踏まえて、申し上げるなら。リニア実験線整備によって、人間生活と環境に対して取り返しのつかない甚大な影響が発生していることを断言できます。

 これから営業線の延伸工事が本格化します。リニア新幹線がたとえ実験線という形であれ、整備された地域に住む私たちのこれまでの経験から、さらに申し上げるなら、これだけの国家プロジェクトで、しかも環境に限りない負荷をかけ、実際に多様で大きな被害が発生している巨大プロジェクトが、なぜ国会できちんと議論・審議されないのか、不思議でなりません。また、今から進められようとしている営業線の工事では、実験線工事による被害が、一層大規模な形で現れることが明らかであるにもかかわらず、環境影響評価(アセスメント)は、それに応え得るものではありません。ま

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つたく不十分であります。今からでも決して遅くはないと思いますが、営業線の延伸工事を一時ストップしで、国民に対してリニア整備の要不要を抜本的に問いかけ、国会できちんと論議・審議していくべきではないでしょうか。

 リニアモーターカーによる新しい陸路輸送が発案されたのは、今から40年前の1970年代です。そのころスピードは絶対善でありました。しかし、もはや成長経済は望むべくもなく、スピード・オンリーのリニアモーターカーは、いま虚心に戻って考えるなら、その価値はすでに失墜しています。とても環境に計り知れない負荷と被害を与えてまでも整備するに足る「文明の利器」ではありません。むしろ「文明の凶器」になりかねません。私たちの経験からの、国民への抜本的な問いかけの核心は、このあたりにあります。

 以上で意見陳述を終わります。

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