内閣総理大臣 安倍晋三殿
国土交通大臣 石井啓一殿

リニア中央新幹線への財政投融資活用方針の撤回を求める要請書

 政府は5月25日、リニア中央新幹線の大阪延伸を最大8年前倒しするために、財政投融資の活用の検討を決め、国内の経済政策の指針「骨太の方針」に盛込むことを明らかにした。これを受けて安倍首相は、6月1日の記者会見で、この方針を認め、約3兆円が延伸用ではなく品川・名古屋間の建設に充てられることになった。一方、JR東海の柘植社長はこれを歓迎し、大阪までの開業を早く実現したい思いは同じであると、受け入れに前向きの発言をした。まず、国会の閉会直後に、何の議論も経ずにこうした大転換がはかられたことに訝しさを感じざるを得ない。

 この財投問題は、一言で言うならば完全にルール違反であり、リニア中央新幹線の前提を根底から覆すものである。そもそもJR東海は、葛西名誉会長が自著『国鉄改革の真実』で述べているように、自費による実現、政治介入を招く国からの支援の拒否を前提にリニア中央新幹線計画を進めてきた。国もその方針に沿って、国交省の交通政策審議会で同様の趣旨を是として事業認定し、工事実施計画を承認した。今回の融資という国の財政支援表明はこれまでの議論を白紙に戻すものである。

 財政投融資は、財投債による公金の支出であり、「国の財政支援は受けない」と言い続けて来たJR東海が、経営の自主性や投資の自由を維持しつつ、国が口出ししない形で公的な財政支援を受けられることを意味する。一般に新幹線整備事業に財政投融資を用いる場合は、鉄道建設・運輸施設整備支援機構に融資し、同機構が新幹線を建設したうえで、JR各社がそれを運用する仕組みになっている。しかし今回の場合は、同機構を通じて行うにしても、全額をそのままJR東海に融資する異例かつ特例的な形をとる。そしてそのための法改正も視野に入れているという。そうまでしてなぜ、JR東海だけにこのような恩恵を与えるのか、合理的な説明がなされていない。また、本格着工以前の段階で、このように既定の方針を根本から変更するような事業計画をなぜ国交省は認可したのか。交通政策審議会の議論が、リニアありきで上滑り、杜撰なものだったからではないのか。この点では、国交省の事業認可に至るまでのプロセスに瑕疵があったと言わざるを得ず、国交省の責任が厳しく追及されなければならない。

 財政投融資は現在133兆円もの規模で、このうち貸付金が95%を占めている。また財投を行うに当たって「受益者負担」が謳われている。人口が減少していく中で、リニア新幹線が事業として成功する保証はない。もし失敗すればその損失は受益者負担として、国民や利用者がそのツケをかぶる可能性が生じて来る。

 以上の通り、事業計画の根本を覆し、手続き違反の疑いがあり、さらに国民の負担を生じかねないリニア中央新幹線計画への財政投融資方針を撤回するよう強く要請する。併せて、このような拙速な方針決定に対し強く抗議する。

2016年6月24日

リニア新幹線沿線住民ネットワーク                       

共同代表 天野捷一、川村晃生、片桐晴夫、原重雄            

ストップ・リニア!訴訟原告団団長 川村晃生                

ストップ・リニア!訴訟弁護団共同代表 高木輝雄、中島嘉尚、関島保雄