東海旅客鉄道株式会社
代表取締役社長 柘植康英殿
リニア中央新幹線への財政投融資受入れ方針の撤回を求めます
政府は5月25日、リニア中央新幹線の大阪延伸を最大8年前倒しするために、財政投融資の活用の検討を決め、国内の経済政策の指針「骨太の方針」に盛込むことを明らかにした。これを受けて安倍首相は、6月1日の記者会見で、この方針を認め、約3兆円が延伸用ではなく品川・名古屋間の建設に充てられることになった。一方、貴社の柘植社長はこれを歓迎し、大阪までの開業を早く実現したい思いは同じであると、受け入れに前向きの発言をした。
以上の経緯を踏まえて、最大の疑問は、貴社が2007年4月にリニア中央新幹線の計画を発表した時から、ずっと一貫して自社資金による建設を言い続けたこととどう整合性を取るのかということである。貴社は当初から、政治的介入を忌避し経営の自由を維持するため、建設費用は全て自社資金で賄うと言ってきた。貴社の葛西敬之名誉会長も自著の中でそのことを強調している。自社資金で建設し経営しても健全経営と安定配当は可能であるという前提のもとに、国土交通省交通政策審議会中央新幹線小委員会で審議が進められ、事業認可という結論が導かれたのである。
それにもかかわらず、今回の財政投融資の方針が示された途端、貴社は手のひらを返すが如く、融資を受け入れたいとの意向を表明した。財政投融資は財投債を資金調達源とした公金である。貴社は国の財政支援は受けないと数多の説明会でも主張して来たではないのか。一般に、新幹線整備事業に財政投融資を用いる場合は、鉄道建設・運輸施設整備支援機構に融資し、同機構が新幹線を建設したうえで、JR各社がそれを運用する仕組みになっている。しかし今回の場合は、同機構を通じて行うにしても、全額をそのまま民間会社であるJR東海に融資する異例かつ特例的な形をとる。そしてそのための法改正も視野に入れているという。なぜ、貴社だけがこのような恩恵を受けるのか、合理的な説明がなされていない。もちろん政府の説明も必要だが、貴社にもこれについて納得できる説明が求められる。
しかも驚くべきことに、柘植社長は6月8日の記者会見で、「経営の自由や設備投資の自主性を民間会社として堅持していく」と述べている。これは、市場の十分の一の低金利で公金を受け入れても国には口を出させないということである。あまりにも身勝手な言い分だと言わざるを得ない。
国に代わって企業が鉄道という公的事業を遂行する場合、国民や利用客に公言した約束を守るのは最低限のルールでありモラルである。こうした観点から言えば、今回の貴社の方針転換は、社会的常識を著しく欠いており、国民を欺くものである。
私たちは、貴社が新幹線鉄道事業という公的な役割を担う企業として、国民から信頼される立場を維持するためにも、今回の政府による財政支援の受け入れを拒否し、これを機に、国民が必要としていないリニア中央新幹線という巨額事業について拙速な推進を見直すよう強く求める。
2016年6月21日
リニア新幹線沿線住民ネットワーク
共同代表 天野捷一、川村晃生、片桐晴夫、原重雄
ストップ・リニア!訴訟原告団・団長川村晃生
ストップ・リニア!訴訟弁護団・共同代表 高木輝雄、中島嘉尚、関島保雄